書籍紹介『生き直す 私は一人ではない』
この本は薬物依存当事者で逮捕歴のある俳優の高知東生さんが、その半生と回復の経緯について綴った本です。
著者の紹介
この本の著者は俳優の高知東生さんです。1993年に芸能界デビューしドラマ・映画、バラエティ番組に出演するなど活躍されていましたが、2016年6月に大麻・覚醒剤所持容疑で逮捕され一線から姿を消します。その後は薬物依存の専門病院・自助グループにつながることで回復を続け、現在は依存症問題の啓発活動に取り組まれています。
本の構成(目次)
第1章 堕ちていく時 ー 元妻高島礼子とのこと
第2章 帰らざる日々 ー 土佐の侠客の子として
第3章 青春の憂鬱 ー 旅立ちの日に
第4章 東京ドリーム ー 成り上がる
第5章 欲望の先に ー そしてすべてを失った
第6章 生き直す ー 自分の役割
本の内容
第1章は薬物依存症当事者である俳優の著者が、逮捕をされたところから始まります。逮捕され、離婚をし、「懲役2年、執行猶予4年」という判決を受け始まった自粛生活ですが、周囲との関係も断絶され孤立を深め自死を考えたこともあったと書かれています。そこに「公益財団法人・ギャンブル依存症問題を考える会」の代表である田中紀子さんから救いの手が差し伸べられます。田中さんから、一緒に依存症の啓発活動をやろうと誘われるのです。そして、「そのためにはまず本人が回復プログラムを受けて回復する必要がある」と説明され、「依存症に至る要因となった、過去に追った心の傷を突き止めること」・「その心の傷を共に分かち合ってくれる、同じ’依存症’という病を患う仲間たちが作る自助グループに参加すること」を提案されます。
第2~5章には過去に追った心の傷を突き止めるための、人生の振り返りについて書かれています。高知で任侠の子供として生まれたこと、幼少期にはどこか寂しい思いを抱えながら成長したこと、母が自死したことなど、そして東京に出てきて薬物に手を出すようになったことなどが詳細につづられています。ただ出来事が羅列されているだけではなく、その時に感じたことなどこころの動きが詳細に書かれています。
そして第6章には逮捕をきっかけに始まる依存症からの回復の取り組みについて書かれています。12ステッププログラムに取り組む様子や、依存症の啓発活動に取り組む経緯などについても触れられています。
全編を通じて、自助グループや回復プログラムを通じてどのようなことに取り組み、どうやって回復し続けているのかが伝わってくる内容になっています。
わたしが読んで感じたこと
この本の前書きには、依存症における自助グループでの回復についての経緯がとても分かりやすく書かれています。「自助グループのミーティングに参加し、”12ステップ”で人生を振り返り、生き方を変えることができた」、「人生を振り返り、(依存症に陥るに至る)生き方のおかしさが生い立ちに起因することも大きかった」とあり、その人生の振り返りがこの本に書かれています。本編を読むと高知さんの生い立ちが赤裸々に文章になっています。任侠の子として生まれたこと、母親が自死してしまったことなど、壮絶な半生です。「自らの人生を振り返ることは、相当な苦痛を伴う作業でした」とあるのですが、自分の弱さと向き合い、正直に語る強さに感動を覚えました。そして、依存症の回復に向けて、どのように生い立ちを振り返っていくとよいのかというイメージを膨らませることができました。「依存症に完治はないが、回復し続けるためには同じ依存症に苦しむ仲間を助けていく必要がある」、「”助けるものが、助けられる”、そんな原理で回復し続けられる病気」というのは、この本を読むととても納得ができます。
わたしがこの本を初めて読んだのは、万引きを手放して1年半が経った頃でした。盗らない生活を送ることが最優先でしたが、この本を読んで生い立ちを振り返り、生き方を変えていく必要を強く認識しました。また、その半年後には高知さんと実際にお会いすることができました。そのときもご自身の経験を自虐的に話してくださるなど、弱さをさらけ出す強さがとても印象的でした。「依存対象が違っても、仲間だな!」と力強く声をかけていただけて、とても勇気づけられました。「わたしも仲間を助けることで回復し続けたい」、そういう思いを強くしたことを覚えています。高知さんはその後も依存症の啓発活動を積極的に行なわれていますが、回復を続けどんどんと輝きを増している印象を受けます。この本を読むと、その最初の段階として、しっかりと人生を振り返りを行い、そこから生き直しをされているのだということがよくわかります。依存症からの回復のイメージを膨らませるためにも、自信を持っておすすめできる一冊です。
書籍情報
著者:高知 東生
出版社:青志社 発行日:2020年9月 定価:\1,400+税
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