やめられないときでもできること

万引きを手放すために,思うことあれこれ

万引きがやめられなかった頃を振り返って、何ができたかを考えてみました。

後悔でなく反省にするために

「あの時ああしておけばよかった」なんて思うことは山ほどあります。「中学校で転校してなければ、摂食障害にならずに済んだのではないか」、「最初の1回がなければクレプトマニアにならずに済んだのではないか」…。でも、それは今だから思えること。時間が過ぎて、過去になったからわかったことであって、そのときできればやっていたはずです。万引きをせずにいられたのであれば、万引きしなかったと思います。他に方法があれば、それにすがったと思います。でも、万引きに依存しないとやってられなかった。もっと言えば、それがなければ生きていられなかった。語弊を恐れずに言うと、その時々で自分なりの最善を尽くしてきたのだと思います。それがわたしにとっての最善であり、限界でした。その弱さを受け入れるしかないのです。そして、変えられない過去について、いつまでも後悔していても仕方ないとも思っています。

でも、仕方なかったとはいえ自分が行ったことで多くの被害者を生みました。これは変えようのない事実です。悔やんでも悔やみきれないし、とり返すこともできません。でも、過去の行いを反省し、経験談として他の人に伝えることで、誰かのこれから先の行動が変わるかもしれません。クレプトマニアによる万引きを減らすために、少しは意味のある過去にできるのではないかと思います。未来に向かって罪償いをするためにも、自身の行動を振り返って、これをしておけば違う展開になったのではないかと思うことを書きたいと思います。

一人での闘いにしたことが大失敗

わたしは万引きがやめられなかったころ、その事実を誰にも言いませんでした。一人で抱え込んでいました。なぜなら、やめたくなかったからです。やめなきゃまずいとは思っていました。でも、やめたいとは思えなかったんです。成功してしまうから、やっぱり得していると思ってしまう。「やってはいけないことだとわかっていても、打ち出の小づちを手放そうと思えない」、そんなことに悩んでいました。「こんなことを続けていたらいつか捕まる、だから何とかしなくては」とは思っていましたが、「やめたくない。誰かに言ったら、やめなきゃいけない。だから、誰にも言わない」という行動をとっていました。「やめたくないけど、やめた自分になりたい」とは思っていたりと、一人で悶々としていました

でも、今思えば「やめたくない」・「やめたいと思えない」・「誰かに言ったらやめるために頑張らなきゃいけないから誰にも言いたくなかった」、そんな正直な気持ちを、否定せずに聞いてもらえる場所でことばにして外に出せばよかったと思います。外に出せていれば、誰かに助けを求められていれば違ったのではないかと感じます。

ガマンできない辛さをため込まない

その経験から言えることは、とにかくため込まないでということ。ことばにして外に出してほしいです。頭で考えているだけでは思考、そこで止めておいてもモヤモヤがたまる一方で、それを万引きで発散しようとしてしまいます。モヤモヤを万引き以外の方法で外に出すために、行動につなげることが大切です。ことばとして外に出してください。他人に言う勇気がなければ、書き出すだけでもいい。何もしないよりもいいです。でも、できれば誰かに話してほしいなと。

誰かに相談してください。誰かに頼ってください。誰かに万引きがやめられないことを伝えてみてください。

すぐに効果は出ないかもしれません。誰かに助けを求めたからと言って、正直に話したからと言って盗りたい気持ちが収まる、そんな簡単なことではありません。でも、すぐに結果が出ないからと言って諦めていいことでもありません。

おすすめなのが自助グループです。同じ悩みを抱えた当事者同士が集まっています。正直に話をしてもそれを責められることはありません。そして、他の仲間の話に共感することで、自分のことばにできなかった感情に気がつけたりもします。

不安であれば、わたしにご連絡いただいても結構です。とにかく、助けを求めてください。

とにかく早く、行動を先延ばしにしない

万引きは成功率が高いです。そして、「やめなきゃまずいけど、やめたくない」という気持ちもあるためやめるための行動をついつい先延ばしにしてしまいがちです。「捕まってないから、まだ大丈夫」、「不起訴だからまだ大丈夫」、「盗ってる金額が少ないから大丈夫」…、全然大丈夫ではないのに甘く見てしまうのです。万引きをしていればいつか捕まります。そして多くの場合、捕まってやっと「あのとき、何か動いておけばよかった…」と後悔するのです。

かといって捕まったら行動できるか?というと、そうとも限りません。捕まった場合、一時的に止まることが多いです。そのため、やめられたと勘違いして問題を放置してしまいがちです。でも、そんな簡単に行かないのが依存症です。「捕まらなければやめられない、捕まるだけではやめられない」、ほんとにその通りです。

更に、依存期間が長くなればなるほど、やめるのが大変になります。とにかく先延ばしにしない、今すぐ行動してください。

自助グループにつながったのに隠し続けた

わたしが初めて自助グループに参加したのは、万引きを繰り返す毎日を過ごしていた時でした。そして、やめたいと思えていない時期でした。それでも、何とかしないとマズいなと思い自助グループに行きました。しかし、わたしは正直になることができませんでした。自分を良く見せたいスイッチが入ってしまい、万引きをやめられている自分を演じてしまいました。毎日のように万引きをしていたのに、それを正直に話すことができなかったのです。せっかく同じ問題を抱える仲間とつながったのに、言いっぱなし・聞きっぱなしという安心・安全な環境を得られたのに、それを十分に活用することができませんでした。これは反面教師にしてください。つながったら是非正直に話してみてほしいです。

そんな中でわたしは「盗れない環境に行かないとやめられない」と思い、入院をしました。そこでやっと正直に今までのことを話せたことが、本当に大きかったです。「もし自助グループで正直に話せていれば、入院せずともやめられたかもしれない」そう思ったりもします。そのくらい正直に話すことの影響は大きいと思います。

詳しくはこちらに書いています。

身近な人に助けを求める

もちろん、万引きをやめるのが一番です。それができなくても、家族やパートナーなど身近な人に助けを求めることはできませんか?警察にお世話になって、家族や身近な人にバレた、自分ではどうしようもできないと気づいた、これは助けを求めるチャンスだと思います。怖いかもしれませんが、身近な人に助けを求めれば「一緒に買い物に行ってもらう」、「家族に買い物に行ってもらい自分ではいかないようにする」など、盗らない生活のために協力してもらえることが大きく増えます。

ただし、依存症だと伝えたところで理解してもらえるとも限らないというのが難しいところ。伝えればわかってもらえると期待しすぎてしまうと、伝わらなかったときのダメージが大きくなってしまいます。わかってもらえないのが当たり前、理解してもらえたらすごい!位の気持ちで伝えるとよいと思います。また、すぐに伝わるとも限らず、時間が必要になるあることもあります。そこは焦らずにやっていけるとよいのかなと。

わたしの場合、家族に伝えてよかったです。捕まった時のことだけでなく、いろんなことを正直に家族に伝えました。その結果、何かあった時には家族に頼ることができる状態になりました。今の盗らない生活を送るうえで家族に正直に話せたことはとても大きいです。

変えるために、行動する

もちろん、一番大切な行動は盗らない生活を続けるということです。「よし、もう盗らない生活になる!」、そんな簡単なことではないです。「頭ではわかっている、でもガマンできない」そういう状況になっていると、何から手を付けてよいのかわからない状況にもなります。そんな時こそ、一人で抱え込まないための行動をしてください。頭の中で悶々と考えるのではなく、行動です。ことばにしてください。誰かに伝えるのが怖ければ、まずは書き出すだけでいい、手を動かす行動をしてみてください。そして、すぐに効果が出なくても諦めずに続けてください。次に誰かに伝えてみてください。自助グループでもいいです。そうやって少しずつ行動を前に進めてみてください。

一刻も早く、一人での闘いをやめ、助けを求める!

自分の経験や他の仲間の体験談を聞いても、結局のところ伝えようとしていることは同じような気がします。一人で抱え込まずに、とにかく早く助けを求めましょうということです。対策に早すぎるなんてことはありません。「まだ捕まっていないから大丈夫」、「不起訴だから大丈夫」、「裁判になっていないから大丈夫」、「止まっているから大丈夫」、「盗った金額が少ないから大丈夫」、そんなことはないんです。窃盗は被害者がいる犯罪行為です。すぐにでもやめなくてはダメです。そして、「依存症は進行性の難病」という表現が当てはまると思います。依存症はどんな段階で一人で太刀打ちできるものではない難敵です。火事と同じようなもの、初期消火が一番です。気が付いた時になるべく早く、「火事だー!」と周りに知らせて助けを求めましょう。火が大きくなってしまうと、燃えたことによる被害はもちろん、消火作業で周りまで水浸しになってしまったりと、被害が大きくなります。そして、すぐに結果が出なくても、続けること。「慌てず・焦らず・諦めず」です。

関連する項目はこちらです。