書籍紹介『母を捨てるということ』

2021年5月1日

処方薬依存の母と娘の関係が書かれた、依存症者家族による体験記です。

著者の紹介

この本の著者であるおおたわ史絵さんは総合内科専門医・法務省矯正局医師です。大学病院・救急救命センター・地域開業医を経て現職をされています。ラジオ・テレビ・雑誌などの各メディアでも活躍される一方で、刑務所受刑者の診療にも携わっていらっしゃいます。

母親が処方薬依存症患者であり、その家族としての体験談が書かれています。

本の内容

この本は処方薬依存症である母と著者である娘の親子関係、また父を含めた依存症者とその家族の関係が書かれた本です。母の処方薬依存症に至る経緯から、亡くなるまでの40年間について書かれています。

この手の本は「回復記」や「闘病記」となることが多いのですが、この本はちょっと違います。著者の母の処方薬依存が悪化した頃(約25年前)、まだまだ処方薬依存についての情報は少なく、処方薬依存症になっていると家族が気づくのは症状が進行してから。また、依存症は精神科でも厄介者扱いされるような病気で、医療機関を探すのが大変な時代でした。処方薬にどっぷりとハマる母に振り回され、家族もギリギリまで追い込まれた状況で著者が出会ったのは一人の依存症専門医でした。その医師からは予想もしなかった方法が提案されます。予想外の提案に戸惑いを隠せない著者でしたが、藁にもすがるような思いでこの提案に従います。タイトルにあるように、家族は依存症者の母と距離をとるという方法で事態の悪化を逃れようとします。「闘病」というよりも「逃病」という表現が当てはまるのではないかと思ってしまう状況です。するとこれをきっかけに新しい展開が始まります。この方法が功を奏し、本人の回復とまではいかないまでも、どん底の状態からは少し落ち着き、家族への影響が少なくなるという段階に至るのです。その後は他の依存症の発症、加齢による体力の衰えによる依存症状の軽減などを経て、母の死によって依存症との闘いは終焉を迎えます。そこに至るまでの家族の苦労がありありと書かれているのがこの本です。

最後の章には医師であり、依存症家族である著者の経験を踏まえた依存症や依存症家族に有用な知識や情報がわかりやすく書かれています。

わたしが読んで感じたこと

著者のおおたわ史絵さんは、テレビや雑誌などでお見掛けすることのある素敵な女医さんです。父が開業医であるということ、更には母が依存症患者であったということは、この本を読む前から知っていました。それでも、医師の娘でご自身も医師、裕福な家庭で順風満帆に育ったお嬢さんなんだろうなと思っていました。でも、この本を読んでそのイメージが一変しました。

読んでいて強く感じたのは、依存症患者本人と同じ、もしくはそれ以上に家族は大変だということです。患者本人によって依存行為に振り回されるのはもちろんですが、家族にも原因があるとされることはとても辛いことであり、簡単に受け入れられることではありません。開業医であったからこそ、母の処方薬依存を助長してしまったという状況を受け入れるというのは本当に辛く大変なことだったろうと思います。また、苦しんでいる患者本人から距離をとるというのは勇気のいる決断ですが、その提案を受け入れざるを得ないほど家族も本当に追い込まれた状態だったということが伝わってきました。著者は母と距離をとる中で同じ境遇にある人(依存症者家族)で行われるミーティングに参加しています。この経験が「大きな革命をもたらした」と書かれており、依存症問題でのミーティングの重要性を再認識しました。

最近になって依存症が病気であるという認識が高まり少しずつ治療法が確立され、世間の目も変化してきました。また、家族の病であるという認識も広まってきており、依存症家族のミーティングが各地で開催されるなど家族への支援体制も広がりつつあります。まだまだ依存症に対する偏見が残る社会で、依存症家族としての体験をこのような形で発表していただくことはとても意味があることです。また、そんな依存症者家族に対して、依存症患者本人ができることは回復への努力を続けることだと改めて痛感できたように感じています。また、この本はハッピーエンドではありません。本人にとっても家族にとっても、依存症との闘いは本当に難しいものであることを最後の最後まで感じさせる一冊でした。

テレビで見るおおたわさんは笑顔が素敵な女性であり、このような家族問題を抱えた過去があると知らない人がほとんどだと思います。この本を読んで事実を知ることで、依存症問題は身近に起こりうることだと知っていただけるのではないかと感じました。

書籍情報

著者:おおたわ 史絵 
出版社:朝日新聞出版 発行日:2020年9月 定価:\1,400+税

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