わたしのクレプトマニア経歴③

わたしの実体験,わたしの歴史

毎日のように万引きをする生活になると、その量も質もエスカレートしていきました。もう自分ではコントロールできなくなっていました

ついに警察にお世話になる

毎日のように万引きをする生活をしていれば、当然のように捕まります

初めて捕まったのは万引きをするようになってから半年を経過した頃でした。仕事が休みの日、近所のスーパーで万引きをしてお店を出たところで保安員(万引きGメン)に声をかけられました。「まずい、捕まった」、悪いことをしている認識はあったので素直に従い、事務室まで連れていかれました。すぐに店長さんもかけつけ、警察へ通報。そして両親にも連絡をしました。

このとき、正直に言ってお店に対して申し訳ないという気持ちは湧いていませんでした。「なんで捕まってしまったんだ?」、「いつから目をつけられてたんだろう?」、「どうすれば捕まらずに済んだんだろう?」など、反省のかけらもないことを考えていました。一方で、両親に対しては迷惑をかけて申し訳ないという気持ちでいっぱいでした。

たちまち警官がお店にやってきて、その場で現場検証です。店内で盗った商品が置いてあった場所に行き指を差し、その様子を制服警官が写真に撮ります。傍から見れば、「あの人万引きしたんだな」とわかる光景です。情けない、恥ずかしい、知っている人が通りませんようにと心から願っていました。警察は再犯防止のためにみせしめとして、お客さんの前での現場検証を行ったのだと思います。しかし残念なことに、わたしにはその効果は万引きを止めるほどには現れませんでした。

その後パトカーでスーパーから警察署に連行され、取り調べを受けました。写真撮影や指紋採取などもあり、「捕まった」ということを強く感じました。初犯だったこともあり、その日に釈放され両親が警察まで迎えに来てくれました。両親には「今日の万引きが初めてではない」とは伝えましたが、それ以上は話すことができませんでした。「毎日のように万引きしている」なんて、言えませんでした。

そして頭の中では、既に捕まったことの原因探しが始まっていて、捕まらないように万引きするにはどうしたらよいかということを考え始めてしまっていました。

翌日から同じ生活

警察に捕まり、両親にも万引きをしていたことがばれ、少しは万引き欲が治まるかと思いきやそんな簡単なことではありませんでした。

警察にお世話になった翌日から、また万引きをする生活が始まってしまいました。しかも一度捕まったことで警戒心が強まり、より慎重かつ大胆になりました。そのことでよりスリリングになり、成功時の達成感は高まりました。達成感が高まると、さらに強い刺激を求めて万引きがエスカレートしていくという、典型的な依存症ループにはまり込んでいました。それでも「次に捕まったらやめよう」、そう思っていました

2回目の検挙

2回目に捕まったのは、初めて捕まってから3か月も経たない頃でした。仕事が休みの日、以前とは違う近所のスーパーで自分用の食品を大量に万引きしようとして捕まりました。同じ警察署に連行され、取り調べを受けました。取り調べが終わったのは夜中1時頃、両親が警察署まで迎えに来てくれました。警察署のエレベーターの中で母に「前回捕まってから、もう万引きはやってないと思っていた」ということを言われました。前回捕まってから今回の万引きが初めてではないとは言いましたが、毎日やっているとは言えませんでした

捕まった時悪いとは思えずやり方がまずかったと思ってしまったこと、両親に本当のことを言えなかったことなど、初めて捕まった時と同じことが繰り返されました。

痛い思いをしたのに反省の気持ちを持つことはできず、「万引きをやめないとまずい」とは思いましたが、「万引きをやめたい」とは思っていませんでした。捕まらずに済むのであれば、万引きし続けたいと思っていました。 万引きがやめられなくて悩んでいましたが、正確に言えば「やめたいと思えないこと」に悩んでいました

唯一変化があったのは、「病院に行こう、行かないとまずい」と思ったことです。その大きな理由が「2回捕まったらやめようと思っていたのに、できそうもない」、「次に捕まったら前科が付く可能性が高い」というものでした。「万引きをやめたい」と思ったというよりも、「このまま捕まらずに盗り続ける自信がない、だから何とかしなきゃ」という感じでした。保身のため、それが本音でした。

翌日にはクレプトマニア専門外来のある病院に問い合わせの電話をしました。結果的に病院に行ったというのは大きな変化でした。

通院と自助グループ通いを始める

問い合わせをした病院は、患者本人が受診する前に家族に受診をしてもらう必要がありました。そのため両親に受診をお願いし、その後わたしが受診をしました。仕事の調整がつかなかったこともあり、わたしが初めて受診したのは警察に検挙されてから約1か月後でした。そしてほぼ同じタイミングでクレプトマニアの自助グループにも通い始めました

この2つを始めましたが、毎日のように万引きをする生活は変わりませんでした。徐々にエスカレートしていくことに歯止めをかけることはできませんでした

病院では受診を開始するときに契約書を書きます。その内容は「スリップ(再犯)したらすぐに申告する」、「スリップした場合、お店に商品代金と迷惑料1万円を払う」、「契約書を常に携帯する」というものです。
このルールを守ることが治療を継続する条件でした。そのため、毎回受診の最初に「契約書持ってる?」、「スリップしてない?」と聞かれます。わたしはいつも「はい」、「はい」と答えていましたが毎日のように万引きをしていました。つまり、主治医に嘘をつきながら通院を続けていました

自助グループについては手ごたえを感じていました。同じクレプトマニアで悩んでいる人の話を聞けたことで、今までにない共感を得ることができたからです。話すことよりも、仲間の話を聞くことに意味を感じていました。わたしは中学生のころに摂食障害の自助グループに参加したことがありましたが、ちょっとイメージが違ってすぐにやめてしまいました。でも今回は通い続けようと思うことができました。

自助グループでは嘘はつきませんでした。「万引きしていない」とは言いませんでした。でも、万引きしているという本当のことも言えませんでした。わたしの中では「嘘をつく」ことと「本当のことを言わない(隠す)こと」は違うという認識でした。そうやって、正当化していました。

今では「正直でない」という意味で同じだと思っています。正直になれずに万引きをやめることは無理だったと、今は分かります。

通院と自助グループ通いを続けられた理由

通院や自助グループ通いを開始しても、わたしの万引き生活は一向に改善が見られませんでした。それどころか、徐々にエスカレートしていました。

それでも通院や自助グループ通いは続けました(通院に関してはルールを完全に無視しているのでいいとは言えませんが…)。それは、「(万引きは徐々にエスカレートしているが)通院や自助グループ通いをしているから、この程度で済んでいる」と考えていたからです。逆に言えば、この2つをやめてしまったらいよいよどうしようもなくなるという危機感がありました。また、警察に捕まった時に通院や自助グループに通っていることは情状酌量に有利に働くという打算的な考えがあったことも事実です。

ルール破りをしても通い続けたという問題はありますが、通院と自助グループ通いをやめなかったことはとてもよかったと思っています。

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