書籍紹介『万引き 犯人像からみえる社会の陰』
現役万引きGメンである著者によって実際の万引き現場の様子が書かれています。犯人像から社会背景が垣間見える、とてもリアルな内容の本です。
著者の紹介
著者は万引きGメン・万引き対策専門家の伊東 ゆうさんです。1999年から万引きGメンとして活動し、5000人以上の万引き犯を捕捉してきた凄腕の現役保安員です。映画「万引き家族」の製作協力や、大学・警察・検察・自治体での「万引きさせない環境作り」講演などの活動もされています。
本の構成(目次)
・まえがき
・所轄警察署を疲弊させる万引き多発店舗の一日
・レジ袋有料化が生み出す歪んだ節約心
・コロナ禍のなかの万引き
・コロナ禍で急増する万引き店主の実態
・映画をしのぐ万引き家族の実態
・困窮と貧困――万引きせざるをえないような人たち
・老女たちの悪事
・外国人万引き事情
・犯罪と迷惑行為の境界線
・従業員の裏切り――頻発する内部不正の実態
・万引きする女たち
・少年万引きから考えるガラウケの重要性
・報復行為で得られるもの――「あとがき」にかえて
本の内容
著者が実際に経験した現場の事例が紹介されており、その日の現場のお店の様子、犯人のお店での動きや犯行時の様子、声をかける場面や事務所での対応、万引きに至る背景などがかなり詳細に記載されています。また、事務所での様子は実際の写真が掲載されており、臨場感たっぷりで、非常にリアルです。コロナ禍真っただ中に書かれた本であり、コロナの影響による社会状況の変化を色濃く反映した内容になっています。50件近くの実例が紹介されており、「摂食障害と万引き」という事例もあります。1つの事例は10分もかからずに読めるので、読みやすいです。
わたしが読んで感じたこと
この本では万引きGメンとして現場で仕事をしている著者が実際に遭遇した場面のことを書いているので、とにかくリアルです。店内の様子(売り場を歩く様子や商品を隠す様子など)、店を出て捕捉する際の声掛け、事務所での様子などが詳細に記されています。自分が盗っていた頃のことを思い出すことが何度もあり、その何とも言えないしんどさ・情けなさから、ページをめくる手を止めてしまうこともありました。万引きをしなくなってまだ間もない人ややめられていない人、時間が経っていても盗っていた頃のことを思い出すのが不安な人は読まない方がいいかもしれません。そう思うくらい本当にリアルです。
この本を読み、万引き犯には本当に迷惑しているというお店側の実情を知ることで、自分の加害行為と向き合うことができたようにも思います。被害現場の実際の様子が書かれた文章を読むのと被害状況を数字で見るのとは全然違いました。万引き犯の挙動不審な行動や事務所で泣きつく様子などが書かれた部分を読み、自分も同じようなことをしていたと思うと何とも情けなくなりました。そして、もう2度と盗っていた頃に戻りたくないという思いを強することができました。また、「1円単位の利益を求めて苦労して仕入れたモノを、タダで持っていくなんてヤツは絶対に許せない。持っていかれる側から言わせれば、理由なんて関係ない。」というお店側のごく当たり前の考えを目の当たりにし、盗っていた頃は本当に被害者のことを考えられていなかったと痛感しました。
あとがきには著者は万引き犯を捕捉するたびに「これを最後にしてくれたら、それでいい」と声をかけていると書かれています。このような思いをもって警備にあたっている方がいることを忘れずに、「もうあの頃には戻らない。盗らない一日を積み重ねていきたい。」と強く感じました。盗っていた頃のことがありありと思いだせるような内容なので、良くない方向に作用する可能性もありすべてのクレプトマニアにおすすめの本とは言い難いのですが、自分のやってきたことと向き合うためにも読んでみることをおすすめします。
書籍情報
著者:伊東 ゆう(万引き対策専門家・万引きGメン)
出版社:青弓社 発行日:2021年5月 定価:\1600+税
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