増加する高齢者の万引き

犯罪としての万引き

高齢者による万引きの増加が問題になっています。クレプトマニアに該当すると思われる高齢者の万引きも増加しています。

高齢者の万引きが多くなっている

万引きというと以前は若者による犯罪というイメージでした。実際、万引きの年代別検挙件数は20歳未満が一番多かったのですが、2010年に65歳以上の検挙件数が20歳未満を上回るようになり、その状況が続いています。

2018年の警察白書によると、万引きによる検挙件数において65歳以上の高齢者が占める割合は2008年には26.6%でしたが、2017年には39.5%と急増しています。人口全体でも高齢者の割合は増加していますが、高齢者による万引きはそれ以上の勢いで増加しています

高齢者の万引きの原因

高齢者の万引きの原因は大きく3つが考えられています。

認知症による万引き

万引きの原因となる認知症として「前頭側頭葉認知症」があります。脳の前頭葉の機能が低下し、この行動は適切なのかという判断能力が失われ、行動を自分でコントロールすることが難しくなる「脱抑制」という症状が現れます。規範意識が低下し、「これくらいなら大丈夫だろう」と安易に考えてしまい非常識な行動がおこりやすくなります。その結果、「このくらい盗っても大丈夫だろう」と万引きをしてしまうのです。

本人は盗ることに悪気がないため、周囲の目を気にすることなく、堂々と万引きするという特徴があります。

この「前頭側頭葉認知症」は、アルツハイマー型認知症に多く見られる物忘れや徘徊はほとんど見られません。また、比較的若年でも発症することがあるため、認知症だと気づかれにくいという特徴があります。そのため、本人も万引きで捕まっても「なぜ、万引きをしてしまったかわからない」という状況になりますが、認知症の影響とは考慮されず刑事罰を受けてしまうことも多いようです。

医師の診断により、万引きが認知症の影響によるものと認められることで、刑事罰を逃れるケースもあります。

貧困による万引き

高齢化により収入が減り、生活が困窮することで万引きをしてしまうというものです。生活に困窮しているため、身なりも整っていない人が多いといえます。 規範意識はあるため、お金があれば万引きはしないというタイプです。

また貧困とはいっても、食べるものがないほどは困っていない、生きていくことはできるが余裕がないという状況で万引きに走るケースもあります。 「必ずしも食うものに困っているわけではないが、生活は苦しくちょっと節約したい」、「いつもなら手が出ないちょっと高いものを買って、贅沢をしたかった」などの理由で万引きをしてしまうのです。

依存行為としての万引き

孤独や家庭環境の変化などの精神的なストレスが原因となり、依存行為として万引きをしてしまうケースがこれに該当します。クレプトマニアといえる状況です。

依存行為として万引きを行っている場合、「認知の歪み(考え方の偏り)」がみられます。言い訳、自己正当化理論と考えるとわかりやすくなります。「沢山あったから、一つくらいなくなっても平気だと思った」、「レジに並ぶのが面倒だった」、「たくさん買ったから、一つくらいもらってもいいと思った」などという考え方です。罪の意識は乏しく、繰り返し犯行に及んでしまいます。

女性の場合は夫との死別による孤独感、家族の介護などによる精神的なストレスから万引きをしてしまうケースが多いと言われています。男性の場合、仕事をやめることで人間関係が切れ、かといって地域のコミュニティとのつながりも乏しく一気に孤独感が高まり、依存行為として万引きに走ってしまうということもあります。依存行為は日常に身近にあるものを対象にしやすいため、日常的に行う「買い物」で依存行為である万引きに走ってしまうのです。

家族がいたり、仕事を続けている状態であれば、「犯罪を起こして家族や職場に迷惑をかけたくない」という心理的なブレーキが作用します。しかし、死別により家族がいなくなったり仕事をしていない状況になると、そのような心理的なブレーキが作用せず、犯罪行為である万引きをしやすくなると考えられています。また将来に希望が持てないこともあり「どうせ、捕まってもいい」と自暴自棄になってしまい、犯罪を起こしやすい状況になっています。

複数の要因が絡んでいることが多い

高齢者の万引きは、複数の要因が絡み合っていることが多くみられます。

「お金がないから万引きをした」という、貧困を理由にする場合でも実際にお金がないというよりも、お金がないと感じている「生活困窮感」が強く影響していると考えられています。実際に「お金がない」という理由のほかに、「経済的に苦しい」と感じることや将来への不安がストレスになり、万引きにつながっているということです。心理的な要因が大きく影響しています。

このような生活困窮感や不安は他人との交流が少ない人に強くみられると言われており、家族・職場・地域コミュニティなどとのかかわりの減少という「社会的な孤立」が影響していると思われます。

どうやって「孤立」や「孤独」を解消していくか

「万引きに関する有識者研究会」のデータによると、65歳以上の万引き被疑者では、離婚や死別による独身者が50%近くを占めており、その割合が高いと報告されています。 また、配偶者がいてもその介護に追われるなどすれば、2人揃って社会的に孤立してしまうことも考えられます。

また、2010年の警視庁の調査データでは、万引きを繰り返す高齢者の約2/3が「生きがいがない」と答えています。そのため、地域社会に生きがいを感じられるような居場所や役割を作り、そこに参加することで社会からの孤立を防げれば、万引きの防止につながると考えられています。「社会と関われる居場所をつくる」ということです。他者との交流が減少すると孤立感を高め、ストレスがたまりやすくなります。また、「万引きしたところで、誰かに迷惑をかけるわけでもない。」と自暴自棄になり、心理的ストッパーがかかりにくく万引きを繰り返す状況に陥りやすくなってしまいます。

今後も高齢者の増加・社会的孤立の問題が大きくなれば、高齢者による万引きも増加することが考えられます。その対策としての「社会とかかわれる居場所づくり」は重要な役割を持つと言えるでしょう。