通院治療・入院治療のメリットとデメリット

回復への取り組み

病院での治療は大きく通院治療と入院治療に分けられます。わたしは両方を経験し、現在は通院治療を続けています。経験をもとに、その特徴を記載していきます。

通院治療・入院治療の両方を経験

わたしは万引きをするようになってから1年弱で通院治療を開始し、並行してクレプトマニアの自助グループにも通い始めました。しかし、その状況でも万引きをやめられず、3か月の入院治療をしました。その結果、万引きをやめることができ、現在も通院を続けています。

わたしが行っている通院治療

わたしは都内のクレプトマニア治療専門外来に通院しています。

わたしの場合、入院前は2~4週間に1度のペースで通院しました。通院時には主治医による診察のほか、先行く仲間によるプライベートメッセージ(回復途上の当事者本人が個別に自分の体験を語る)を受けました。また、退院後は月1回のペースで通院し、プライベートメッセージを運ぶ(自分の体験を語る)側になっています。

混みあっていることも多く、午前に受診しても終わりは昼過ぎになってしまうこともしばしばあります。わたしは仕事が休みの日に受診していますが、半日休みでの受診は厳しいかなという印象を受けます。

通院治療のメリット

通院治療のメリットは、社会生活や家庭生活を維持しながら治療を継続できるという点です。仕事を続けながら通院する、家事を行いながら通院することができます。ただし、仕事については何らかの制約を受けてしまうことが多いようです。診察は平日のみというところが多く、通院のたびに仕事を休む必要があるかもしれません。

また、通院治療でも医療機関によっては毎日通院して、治療プログラムに取り組むところもあります。平日は毎日通院していた仲間からは、フルタイムでの勤務は難しく、夜間や週末のパートの仕事に変えたという話を聞きました。

それでも家を空ける必要はないため、家事や子育て、介護などを担っている方にとってはメリットのある治療法だと思います。

わたしの経験した入院治療

わたしは3か月の入院治療を経験しました。そこにはクレプトマニア以外にもアルコール、薬物などの依存症患者が入院していました。「治療効果を出すためには最低でも3カ月は入院したほうが良い、もっと長くてもいい」と言われ、「ならば、3か月で退院できるように頑張ろう!」という気持ちで入院しました。

わたしが入院した病院はクレプトマニアの集団療法が行われており、常時30人以上のクレプトマニア患者が入院していました。治療の中心は当事者のみのミーティングで、毎日朝・夕、そして曜日によっては日中にもミーティングがあり、1週間で20回近くミーティングがありました。その他にも定期的な主治医の診察やカウンセリング、依存症に関する勉強会の参加などもありました。他の依存症の患者と一緒に行うプログラムもあり、交流もありました。

また、万引きにつながりやすい生活の改善を図るため、生活習慣についても指導が入りました。クレプトマニアは溜め込み癖がある人も多いので、ある程度の荷物にまとめるように指示され、荷物の一覧表を提出し、抜き打ちで持ち物検査が行われました。金銭管理については現金出納帳をつけることが義務付けられました。買い物などに行けば看護師に現金出納帳とレシートを提示し、金額を合わせちゃんと買い物しているかの確認を受けました。

よく質問されること

わたしは摂食障害(過食嘔吐)を併発していますが、そのことを知っている人からは「入院すると過食嘔吐をやめなくてはいけないのか?」ということを質問されることが良くあります。そして、その気持ちがとてもよくわかります。なぜなら、わたし自身も同じことを気にして、入院経験者に質問したからです。さらに言えば、入院を躊躇う大きな理由に「過食嘔吐ができなくなることへの不安」があったからです。

わたしが入院した病院では過食嘔吐ができなくなる、やめるように指導されるということはありませんでした。わたしは「入院中は過食嘔吐はしない」と決めて入院し、やりませんでしたが、食べ物の持ち込みや病院内での購入は可能で、できる環境ではあり、実際に過食嘔吐をしている患者もいました。

過食嘔吐など摂食障害は改善するに越したことはないが、まず優先すべきは万引きをやめることというスタンスで、摂食障害への治療を積極的に行うという感じではなかったです。そのため、食事制限や体重測定は問題があった場合のみ行われていました。実際に入院経験者に質問し、過食嘔吐を無理にやめさせられることはないと知ったことは入院を決意することの後押しになりました。

※こちらに書いているのはわたしが入院した病院の場合であり、摂食障害治療に対する考え方は医療機関や医師によっても異なります。

入院治療のメリット・デメリット

入院治療のメリットは集中的に治療が行うことができることです。仕事や家事など、他にやらなくてはいけないことから解放されて治療に集中できるので、とにかく、治療の濃度が濃いです。ミーティングへの参加以外にも、カウンセリングを受けたりサイコドラマに参加したりと専門的な治療を受けることもできました。また過去の出来事を振り返ったり自分の問題点と向き合ったりと、一人の時間があるからこそできる取り組みがたくさんありました。

クレプトマニアの仲間に囲まれて生活することのメリットも感じました。ミーティング以外の時間にも同じ悩みを抱えた仲間に相談することができ、夜遅くまで話が盛り上がったこともしばしばありました。「盗りたくなってしまう」という、普通ではなかなか口にできない悩みを共感することは実生活ではなかなかできません。また、ちょっとした悩みを多くのクレプトマニアを見てきた看護師やソーシャルワーカーなどに相談することができたのもとても助かりました。

入院生活は閉鎖空間、つまり「盗れない環境」にいるため、万引きするリスクは低いです。盗ってしまうことの不安から解放され、入院している本人はもちろん、家族も安心できると思います。社会と切り離された「盗れない環境」に置かれるので、万引きに頭が支配されて疲れ切った状態から解放されます。わたしは入院前まで万引きをしていたので、入院して初めて万引きの「空白期間」ができました。それによって、怯えや不安感から解放され、「盗らない生活の方がよっぽど楽だ」ということに気が付きました

また「盗れない環境」にいることで、万引きをガマンすることを考えなくて済むので、集中して治療に取り組むことができました。これは本当に大きかったと思います。入院前の「盗れる環境」での生活では、頭が万引きのことに支配され目の前のことしか考えられない状態で、他のことを考える余裕はありませんでした。できたとしても、どうすれば今日一日ガマンできるかを考える程度で、自分の問題点と向き合うことはとてもできる状態ではなかったです。それが「空白期間ができる」ことでやっと問題点と向き合うことができたと思います。

その他、「普段やっていた家事から解放される」、「仕事のことが頭から離れた」など、万引き以外のことについても解放されるのでストレスが減ることも期待できるのではないでしょうか。

入院治療の大きなデメリットは、長期間家を開けなくてはいけないということです。わたしは3か月の入院でしたが、そのくらいは必要だろうなと感じました。「仕事の都合で1か月の予定で入院したが、入院継続の必要性を感じ職場にお願いして3か月間入院することにした」という人もいました。

また、入院環境と実際の生活環境は違います。入院中は守られた環境での治療であり、「万引きができない環境だからやっていないだけかもしれない」という思いはありました。盗れない環境にいることで窃盗欲求を刺激していないから落ち着いているだけで、お店に行けば盗りたくなってしまうのではないかということです。外泊などで予行演習を行うことはできますが、本当に試されるのは退院後ということになります。

クレプトマニア専門外の依存症病院への入院

わたしが入院した病院はクレプトマニアが多く入院する依存症治療専門病院だったので、クレプトマニアのみのミーティングも行われていましたが、そのような病院は少ないです。次の選択肢としてはクレプトマニアは専門外の依存症治療の病院だと思います。依存対象が違っても依存症の根っこの問題は共通点が多く、違う依存症の仲間とのミーティングも得られるものがあると思います。また、依存症全般に関する知識をつけるプログラムなどを取り入れている病院も多く、知識をつけることはとても有益です。また、「盗れない環境に身を置く」という入院の大きなメリットは得ることができるので入院する意味はあると思います。

一方で、やはりクレプトマニアの入院仲間が少ないことで治療効果が限定的になってしまう可能性が高いと感じます。依存症治療を多く手掛けている精神科の医師がtwitterで次のようなことを発信していました。


『万引き依存は、酒や薬物やギャンブルと違って「家族以外の被害者がいる」依存症で、治療施設に入院しても依存症仲間の共感を得にくい。彼らの中には酒や薬物などの依存も合併している人がいて、病棟ではそれらをオープンにすることで仲間とつながろうとする。ところが、「人に言えないコレについては誰にも分かってもらえない」という孤独感がどうしてもつきまとってしまう。互いにプラスの影響を与えて支え合う仲間が必要な疾患なのに、オープンにしにくいことと、酒や薬物やギャンブルに比べて同病者が少ないこととで、苦しみが倍加してしまう。』

いくら同じ依存症仲間と言っても違うアディクションの仲間にクレプトマニアであることを正直に話したり、共感を得ることは簡単ではありません。オンラインミーティングを活用することなどである程度補うことができるとは思いますが、クレプトマニア同士で気軽に雑談できるなど、やはり病院内でクレプトマニア当事者とのつながりがあるとないとでは差が生まれてしまうと思います。また、治療者側もクレプトマニアに対する治療経験が豊富であるということは大きなメリットです。逆に言えば窃盗の問題はある程度落ち着いていて、依存症の根っこの部分の問題に取り組むことが目的であれば、それなりの効果が望めるのではないでしょうか。

治療パターン わたしが抱く印象

わたしは通院は都内のクレプトマニア専門病院、入院はその関連病院に入院しました。そこでは次のようなパターンになることが多い印象です。

・入院→通院
治療開始当初から入院治療に取り組むパターンです。事件を起こしてしまい家族や弁護士など、周囲からの強い勧めで入院するという人が多いです。依存症は否認の病と言われており、本人が治療の必要性を認識できないことが多くあります。そのため、自分から進んでいきなり入院という人は少ないと思います。

・通院→入院→通院
通院治療を行うも十分な効果が得られず、入院治療に取り組み、退院後は通院でフォローアップを受けるというものです。わたしはこのパターンです。通院開始時に入院を勧められるも様々な事情で二の足を踏んでいるうちに事件を起こしてしまい、入院にすることになったという話はよく聞きます。また、フォローアップ中に再度事件を起こして再入院するということもあります。

・通院のみ
通院治療の継続で、盗らない生活を送れているというパターンです。自助グループの参加なども併せて行うことも多いです。

病院に行けばやめられるというわけではない

クレプトマニアなどの依存症は「病院に行けばやめられる」というようなものではありません。それは通院でも入院でも同じです。「治してもらおう」と受け身でいてもまず結果は出ません。本人が覚悟を持って治療に取り組まない限り、効果は出ないと思います。通院より入院の方が効果は出やすいと思いますが、わたしが入院していた時には、ある医師は「回復するのは2割くらい」とおっしゃっていました。入院治療に取り組んだ患者のうち、約8割の人がスリップ(再び窃盗をする)をしてしまうというのが現状です。

詳しくはこちらに書いています。

通院や自助グループへの参加など、回復につながる行動をやめてしまうとスリップしてしまう可能性が高くなるのは間違いないと感じています。というのも、スリップした仲間から「もう大丈夫だと思って自助グループへの参加をやめてしまった。今思うと、それがスリップの要因の一つだと思う」という話を聞くことが多いからです。また、スリップしたからと言って治療効果がなかったわけではないと思います。治療に取り組んでいなかったら、もっと早い段階でスリップしてしまった可能性も高いです。通院にしても、入院にしても、クレプトマニアの治療は短期間でわかりやすい効果が出るものではありません。依存症は回復はあっても完治はしないと言われています。窃盗衝動が治まっていても、スリップしてしまったとしても、慌てず・焦らず・諦めずに長期間治療を継続することが大切だと思います。

関連する項目はこちらです。