利き手を変えるイメージ

先日読んだ依存症関連の本に、依存症治療を利き手を変えるイメージに例えた文章があり、それがとてもしっくりきました。クレプトマニアの場合で考えてみたいと思います。

また、この文章では利き手のことを右手、非利き手のことを左手と表現しています、ご了承ください。

利き手(優先して使う方法)がおかしくなっている

ある依存症関連の本に「依存症治療とは右利きの人が左手で箸を使えるように練習するようなもの」という表現が載っていました。この表現、すごくわかりやすいと思いました。「簡単にできてしまう方法を使わずに、敢えてやりにくい方法でできるように練習する」といった意味だと思います。

お店で商品を手に入れようとするとき、普通は買います。通常の右手は「買うこと」です。食卓に座れば特に考えずに右手で箸を持って食事をするように、特に疑問もなくレジに並んで会計を済ませるのが普通です。でもクレプトマニアの場合、右手が盗ること(万引き)になってしまいます。左手が買うことです。「お金を減らさずにモノが得られる」、「レジに並ばなくてもいい」、「成功すると満足感・達成感が得られる」など万引きにメリットを感じてしまい、当たり前のように行うようになってしまいます。ます。その結果、左手を使う(お金を払って買う)ことはやりにくいこと、やりたくないことになり、より使いやすい右手を使う(万引きをする)ようになってしまいます

意識的に左手を使う

使いやすいからと言って右手を使い続けていいわけではありません。 右手でお箸を使ったほうが明らかにやりやすく、左手で箸を使うことを練習するのは苦痛が伴います。右手を使おうと思えばいつでも使える状況で左手を使えるようになる必要があり、右手を使いたい誘惑と戦いながら使いにくい左手を使うのはとても大変です。

最初は苦労します。左手を使うたびに、右手ならもっと簡単に楽にできるのに、そういう思いが浮かぶかもしれません。そのような状況でいかに左手を使い続けるか?が大切です。ガマンして左手で使い続けることで少しずつ上達し、抵抗感が少なくなっていくと思います。諦めずに左手を使い続けていくことで、左手も普通に使えるようになるはずです。

友人に右利きだけど、お箸だけは左手を使うという人がいます。彼女は小学生の頃バスケットボールをやっていて、左手も右手と同じように使えるようになるために、左手でお箸を使うことを練習し、そのままずっと左手を使っているそうです。右手も使おうと思えば使えるそうですが、左手で使うことが当たり前になっています。長年続けていれば、それが当たり前になることもあるという例です。

右手(万引き)が使えなくなったわけではない

わたしの場合、今は左手が使えるようになりました。つまりちゃんと買えるようになりました。盗らない生活を送るうえで、この「ちゃんと買える」ということがとても意味のあることだと感じます。「盗らなくなった」ということ以上に、「ちゃんと買えるようになった」という感覚が強いです。

でも右手も使えます。万引きだってやろうと思えばできます。両利きです。これは普通の人にはない状態です。万引きを繰り返したことで方法は身についていますし、脳はその達成感・満足感などの快楽を覚えています。むしろ右手の方が便利だと思います。駅改札の投入口やハサミなど、世の中は右利きの人が使いやすいようにできていますから、一度右手(万引き)を使ってしまったら、「やっぱり右手は便利だな」と右手を使い続けたくなってしまうことは目に見えています。このことを忘れてはいけません。

捕まった直後は、右手をケガしているような状態です。右手を使おうと思えば使えるけど、右手を使うと痛いので、仕方なく左手を使っているというような状態だと思います。入院や留置・服役などはギプスで固めていて右手は使いたくても使えない状態、つまり「盗れない環境にいるから盗っていない」ということだと思います。どちらのパターンも、一時的に左手を使っている状態であり特に対策をせずに時間が経過して右手が普通に使えるようになれば、右手を使うようになる可能性が高いです。ケガが治ったり、ギプスが外れたりして右手が難なく使えるようになった時に、いかに左手を使い続けられるかが重要になります。そのためにも右手を使わない間に、左手の練習を繰り返すことが必要です。右手を使ってはダメだという気持ちを高め、抵抗感なく左手を使えるようになることが必要なのではないでしょうか?

また器用さで言ったら右の方が器用です。右はしばらく使わなくても、一度使えばすぐに使いやすくなってしまいます。でも左は不器用なので、一度使わなくなったら使いにくくなってしまうと思います。利き手を交換するのは大変でも戻すのは本当に簡単だということです。左手を使い続ける、それ以外に方法はありません。

左手が使えないに時に、右手を使わずにいられるか?

左手が使える(ちゃんと買える)ようになったからと言って、油断大敵・過信禁物です。というのも、左手が使えない状況、つまり買いたくても変えない状況が来る可能性があるからです。

生活の中で左手が使えない、買いたくても変えない状況として「生活が苦しくて貯金が無くなってしまった」、「レジが混んでいるが並んでいる時間がない」、「レジの故障で現金しか使えないが、持ち合わせがない」などということが考えられます。この時に左手が使えないからといって右手を使わない、「万引きをしない」という選択肢を取れるかということがとても大事であり、クレプトマニアにとっては「(万引きの誘惑に勝てるかどうか)試されてる」と感じるできごとです。「お金がないから、家族からお金を借りよう(弱いところをさらけ出し、助けを求める)」、「お店で買うのは諦め、自販機で買おう(金額は高いが時間にお金を払う)」、「時間がないから買うのはガマン」、「レジの故障で現金しか使えないなら、諦めよう(故障は相手が悪い、だから盗ってもいいというような認知の歪みにつなげない)」というような万引きをしない行動は、普通に買える人なら当たり前であっても、クレプトマニアにとっては簡単なことではありません。

このような左手を使えない状況でも右手を使わない行動がとれるというのは、クレプトマニアにとっては褒めるに値することなのです!

左手を使い続けるための工夫

わたしは両利きです。今は左手を使っていますが、右手も使えます。そして一度右手を使い始めたら、右手の方が使いやすくなりあっという間に右手使い(万引き生活)に戻ってしまうと認識しています。そのため「現金は少し多めに持つ」、「財布を忘れても現金があるように、キーケースにも現金を入れる」、「時間がない時はなるべくお店に入らない」など左手を使い続ける(ちゃんと買い物ができる状況にする)ための工夫はしています。また、お酒を飲んで酔っ払っているときや服薬の影響でボーっとしているときなどは、うっかり右手を使ってしまうということもあり得ます。やっぱり右手も使えてしまうからです。実際に仲間からはスリップしてしまった時の状況として「お酒に酔っていて、盗ってしまった時のことを覚えていない」、「服薬の影響でボーっとしていた」という話を聞いたことがあります。このようなときはお店に行くことは避けた方が良いと思います。

もともと利き手でない左手は、不器用なのでちょっと使わないとあっという間に使い方が下手になります。買うことがうまくできなくなり、あっという間に右手を使う生活、つまり万引きに依存する生活に戻ってしまいます。一方、もともと利き手である右手は器用であり、いくら使わなくて使えなくなることはないでしょう。だからこそ、左手を使い続けるための工夫・取り組みはずっと続けなくてはいけないと思っています。もう右手を使いたくないので。

関連する項目はこちらです。