「ちゃんと買う」イメージを持つ

盗らないための工夫

「盗らない」ことを考えるより、「ちゃんと買う」というイメージを持つ方が効果的かもしれません。

買い物の状況をイメージする

盗らない生活を送るためには買い物に行く前に、店内での一通りの動きの流れをイメージすることが効果的だと思います。

あらかじめ買い物メモを作り、買うものを決めておきます。さらにお店の中で必要なものをかごに入れる最短ルートをイメージして、なるべく無駄なことはしないというもの。なるべく誘惑を少なくする作戦です。このように誘惑を少なくして、さっさと買い物を済ませるという手法をとっている人は多いです。「盗らないで売り場を回る」そういうことをイメージして、買い物を済ませようと考えます。

盗らないことはイメージしているが…

わたしは入院中、いろんなクレプトマニア仲間と万引きをしないための買い物の工夫について話をしてきました。その中で気が付いたことがあります。「どうやったら盗らないか」ということは考えているんですが、「レジでちゃんとお金を払って買う」というような「どうやったらちゃんと買えるか?」ということは話題にならないんです。「大きなカバンは持たない」、「お店で不要なものは見に行かない」など盗らないための工夫やイメージは持っているのですが、「レジへ行く」、「お金を払う」といった買うということをイメージしていないことがほとんどでした。

「盗りたくて盗る」のではなく、「買うことが怖くて盗ってしまう」

クレプトマニアは「万引きをする病気」なんですが、「買えない病気」であるとも言えると感じます。クレプトマニアには、「盗りたくて、盗る」という気持ちと「お金を使いたくないから、盗る」という気持ちがあると思います。後者には「お金を使いたくない」というレベルを越えて、「お金が減るのが怖い」という感情も入ってくることもよくあります。どちらか一方とも限らず、この2つが入り混じっていたり、割合が変化していく印象です。

摂食障害からクレプトマニアに移行する人には、枯渇恐怖がとても強く、「お金が減ることが怖い」、「支払うことが買うことが怖いから盗ってしまう」という人が多い気がします。「人からモノを奪いたいから、盗る」のではなく、「お金を減らさずにモノを得たいから、盗る」という感じです。その結果、始めのうちは万引きするのは食べ物に限られていても、お金をが減ることが怖いために食べ物以外も万引きするようになってしまうこともよくあります。

わたしの場合、万引きを始めた最初の頃は「なるべく食べ物にお金を使いたくない」という思いから万引きをしていました。それがだんだんと万引きで達成感や満足感を得るようになり、「盗りたくて、盗る」という気持ちの割合が大きくなっていきました。食べ物に対してお金を使いたくないという思いはかなり強かったですが、お金が減ることへの恐怖心はあまりなかったので、日用品など他のものは普通に買うことができました。でも摂食障害からクレプトマニアに移行したパターンであり枯渇恐怖もそれなりにあるので、そのまま盗り続けていたら食べ物以外のものも万引きするようになっていた可能性が高いです。

「盗らないようになる」ではなく「買えるようになる」

「万引きをしてはいけない」それを強く意識するので、「どうすれば盗らないか?」という方向に目が向きがちです。でもここは「どうやったら盗らないか?」ではなく、「ちゃんとお金を払って買い物するにはどうすればよいか?」ということに意識を向けたほうが良いと思います。これは「お金を使わないために、盗る」、「お金が減るのが怖いから、盗る」という人には特に当てはまります。というのも、盗らない生活を送れるようになって感じるのは「盗らないようになった」ということ以上に「ちゃんと買えるようになった」という感覚が強いからです。「どうして盗ってしまったか?」というところで思考を止めず、「ちゃんとお金を払って買い物するにはどうすればよいか?」というところまで考えられるとよいと思います。

「盗りたくて盗っていた」というのもあるのですが、それ以上に「お金を減らしたくない、でもほしい。ならば盗ってしまえ!」、「お金を減らしてはダメ、盗らねば」という思いにかられていました。盗ることで得ていた満足感は、「お金を減らさずにモノを得ることができた」ことで感じられていたのではないかと思います。この満足感を「きちんとお金を払って、堂々とモノを得る」満足感に変えていかなくてはいけません。

〇〇しないというイメージは○○することを意識してしまう

「○○しないぞ!」と頭の中にイメージするときはどんなことを頭に思い浮かべますか?

これはわたしの場合ですが、「○○しないようにしなきゃ」と考えるとき、○○している画像の上に×印をしているような図が頭に浮かびます。一度○○することをイメージしてから、それを打ち消しているような感じです。万引きの場面でいうと、一度盗っている場面を思い浮かべてそれを打ち消してるんです。「盗らないようにしなきゃ」と思っているのに、「盗ること」を思い浮かべてしまうんです。そのあとにいくら打ち消すとはいえ、盗ってしまう状況をイメージしてしまうことが良くないと感じています。

人には「何かを禁止されたり制限されたりしたときに、逆に気になってしまう」という心理(カリギュラ効果)があります。「盗らない」という意識を強めすぎてしまうと、逆効果になってしまう可能性もあります。

ここで例え話、道が左右に分かれていていたとします。右に行かないためには、「右に行かない」と考えるのもいいですが、「左に行く」と考えるのもありです。「○○しない」と考えるのではなく、「××する」と考えるのです。「盗らない」というよりも、「ちゃんと買う!」というイメージです。「店内を回って、商品を手に取り、最後にはレジを通ってお金を支払う」というように、お金を払って買い物を完結させるまでをイメージするとよいと思います。

実際にお金を払う練習をする

万引きを繰り返していると、普通に買い物をすることが難しかったり怖くなってなってしまうことがあります。そこで有効と思われるのが「買い物をする練習」です。「盗りたい気持ちをガマンして、レジに行きお金を支払う練習」です。

その方法として、100円ショップや駄菓子など、安いものを買うことで練習することをお勧めします。「レジに行き、お金を払いちゃんと買う」という一連の流れを、安いものを買って繰り返すという方法です。

きちんとレジでお金を払えば、当たり前ですが堂々とお店を出ることができ、万引きしているときの「誰かが捕まえにくるかもしれない」というような怯えや後ろめたさを感じなくて済むことが実感できます。また、ちゃんと買うことで満足感・達成感を得ることができます。万引きすることで得られる達成感・満足感とは違う、清々しいというか健全な達成感・満足感であり、店を出るときの気持ちが良いのです。わたしは入院中に外泊をしたときに、このようなちゃんと買って堂々とお店を出る満足感・達成感を味わうことができたのですが、背中から羽が生えたのではないかと思うような軽やかさを感じました。万引きをした時の達成感より、ちゃんと買った時の達成感の方がよっぽどいいです!

このようなちゃんと買う練習を繰り返して成功体験を重ねることが、お金を払うことへの抵抗感を減らし、普通に買い物をすることができることにつながると思います。

同伴者に「ちゃんと買う」ことを教えてもらう

万引きをしないために、ご家族や支援者に一緒に買い物に行ってもらうことをお願いすることもあると思います。このときも、「盗らないように見張ってもらう」というよりも「一緒に買い物をする」というイメージが良いと思います。というのも、同伴者は「どういう時に盗りたくなるかわからず、何に注意して一緒に買い物すればいいのかわからない」、「盗りたい気持ちがわからないから、ガマンする方法を一緒に考えると言われてもピンとこない」、「見張るように行動するのは精神的に辛い」という状況になりやすいと思うからです。こうなると、お互いにしんどくなってしまいます。

家族会に参加した時に、「盗りたいというよりも、”ちゃんと買えないから盗ってしまう”という感覚が強い」とお話ししたところ、「盗りたい気持ちをガマンする方法はわからないけど、ちゃんと買う方法なら教えてあげられる」とおっしゃったご家族がいて、とても印象に残っています。「一緒にちゃんと買ってお店を出て、ちゃんと買うとこんなに気持ちよくお店を出られるってことを教えてあげればいいんですよね」とおっしゃっていて、まさにその通りだなと思いました。

クレプトマニア当事者側から買い物同伴をお願いするときも、「盗らないように見張っていてほしい」ではなく「一緒にレジに行き、きちんとお金を払って買うことを教えてほしい」とお願いするとよいと思います。

ちゃんと買い物できたら自分をほめる!

「万引きしない!」と思っていると、どうしても万引きのことが頭をよぎってしまいがちです。「ちゃんと買う!」ということを意識して、レジでお金を支払うところをイメージし、買い物を無事に完結させる自分の姿を想像するとよいのではないでしょうか。

そして、無事にお金を払って買い物ができたら、自分で自分をほめてあげましょう!

関連する項目はこちらです。