悪のカルマを手放す ~Mさん(50代女性)の場合~ 

仲間の体験談

盗らない生活を送れるようになったMさんが、電話インタビューに応じてくださいました。(2020年8月19日)

クレプトマニア経歴について

わたしは50代女性です。今はパートの仕事や障害年金を受給しながら、両親と3人で生活しています。

わたしがクレプトマニアになったのは15年くらい前の話です。以前から躁うつ病を患っていて、精神神経科に通院していたのですが、39歳の時に症状が強くなったので病院を変えました。その結果、薬の量が増え、その頃から万引きをするようになってしまいました。

7年くらい、毎日のように万引きをしていました。万引きをしていたのは食べ物や飲み物、洋服・カバン・靴などです。食べ物・飲み物は自分用のもので、スーパーなどで普通に買い物をしながら数点をカバンに入れ万引きするといった状況でした。お金を節約したいという気持ちだけでなく、万引き自体が目的になっている感じもあり万引きをするために買い物に行っていました。洋服・カバン・靴などを盗るときには大きな旅行カバンを持ってお店に行き、カバンに詰め込むようにして万引きをしていました。そして、万引きしたものは自分では使わずに、リサイクルショップなどでお金に替えていました。

生活の中に当たり前のように万引きがあり、躁状態の時は特に盗る量が多かったです。

万引きをしていた理由の一つは、経済的に得をしたいという気持ちです。盗っていた頃は夫がいて、パートで仕事をしていましたが、住宅ローンなどの借金もあり生活費を少しでも節約したいと思っていました。また、盗ったものをリサイクルショップに売ったりして、お金に替えることもしていました。

でも、続けるうちに万引きをしないと精神的に落ち着かない、そんな状況になってしまっていました。万引きすること自体が目的になってしまっていました。合計すると10回くらいは捕まったと記憶しています。警察に通報されないこともありましたが、最後に捕まった時には罰金刑になりました。

入院生活を送る

罰金刑になったことで、妹がインターネットでクレプトマニアについていろいろと調べてくれ、クレプトマニア治療専門の病院に3カ月弱入院しました

その病院の治療は当事者のみのミーティングが中心で、毎日のようにミーティングがありました。そこでは万引きをしてきた過去を正直に話しました。ミーティングの意味はあまり感じられませんでしたが、今思えば正直に話すこともできたし、他の仲間の様子を聞くことができたことはいい経験になったと思います。

入院によって大きく変わったのは服薬量です。20代の頃から精神神経科に通院していましたが、うつ病がひどくなり病院を変えてから薬が増えていました。そのころから万引きも多くなっていましたが、万引きをしていることは医師に伝えていませんでした。そして入院をしたときに、飲んでいた薬をすべてやめました。ちょっと驚きましたが、医師の指示で半強制的にやめることとなりました。この服薬量を減らせたことは、万引きを手放すことに大きく影響したと思います。入院時の仲間には、わたし以外にも同じように躁うつ病の薬を減らしたことが万引きを手放すことにつながったと感じている仲間がいました。

退院後もしばらくは盗っていたが、今はやめられた

退院後は入院前に通っていた精神神経科に再び通うようになりました。入院前は毎日のように万引きをしていることを隠していましたが、入院先の病院に報告書を書いてもらいクレプトマニアの治療を行ったことなどを伝えました。その結果、服薬治療を再開しましたが量は入院前の1/3程度になりました

現在も精神神経科に通院しており、主治医の薬物療法が中心です。ここ5年くらいは躁うつ病の症状が落ち着いていて、服薬量も退院時とほとんど変わっていません。

今は離婚し、両親と3人で暮らしています。妹が近くに住んでいて、月に1~2回訪ねてきます。捕まった時には父が警察に迎えに来てくれたり、両親にはいろいろと迷惑をかけました。退院後にはクレプトマニアのことについて両親や家族と話をすることはほとんどありません。

現在はパートでの収入と躁うつ病での障害年金を受給しながら生活をしています。クレプトマニアに関しては通院も自助グループへ通うこともしていません

万引きについては量や回数は減ったものの、退院後も3年くらいは続いていました。旅行カバンに衣料品を詰め込むような万引きはしなくなりましたが、自分のための食料品をちょこっと万引きするというのは続いていました。でも、退院から約3年経った頃から盗りたいという気持ちがほとんどなくなり、盗らなくなりました

今は盗らない生活になって4年ほど経過し、普通に買い物をすることができています。買い物中に小さいものをみて「盗れるな」と思うこともありますが、ちゃんと買っています。再発への不安は、ほとんどないですね。

盗らない生活への考え方の変化

今の盗らない生活には、入院して薬を減らせたことが大きく影響していると思います。入院前は抗うつ薬が増えたことが万引きに影響しているとは考えていませんでした。入院して半強制的に減薬しましたが、退院後も躁うつ病の症状は安定していますし盗りたいと思うことが減りました。入院治療ができて良かったと思うのはこのあたりです。

退院後も3年くらいは万引きしてしまうことがあったのですが、今は4年近く盗っていません。なぜ万引きしなくなったかというと、万引きをすることは「悪のカルマを積んでしまうこと」だと思うようになったからです。

カルマとは「業(ごう)」のことで、行為全般を指すことばです。
その人の運命は自分のカルマが影響します。
善いカルマは善い運命を生み出し、悪いカルマは悪い運命を生み出します。
ひとたびカルマを積んでしまうと、そこから生み出される運命は避けることはできないと考えられています。
善いカルマも悪いカルマも、強烈な力で因果応報の報いを引き起こすという考え方です。

高橋 悠 追記


今思うと、万引きしてた頃の方が運がなかったというか、いろんなことがうまくいきませんでした。得をすると思って万引きをしていましたが、その頃の方が借金やローンの返済に追われたりして、経済的にうまくいっていなかったです。また、万引きをし続けたことで罰金刑になったり入院費がかかったりと結果的に損をしました。

万引きをやめて、ちゃんとお金を払って買い物をした方が運がついてくる感じがするんです。万引きを続ける生活の方が、うまくいかないということがわかりました。万引きという悪いカルマが、悪い運命を生み出していたんだろうと思います。お店で買い物をしていると「盗れるな」と思うことはありますが、悪いカルマを積んでしまいそうだから万引きはしないです。

退院後もしばらくは結婚生活を続けていたのですが、離婚して環境が変わりました。それも万引きを手放せたことにつながっているのかもしれません。

大切なのは気持ちや考え方の変化

退院した後には、万引き防止のお守りとして母からもらった指輪を意識的にはめていました。仲間にも同じようにお守りにしているものを持ち歩いている人がいましたが、わたしの場合はあまり効果を感じられませんでした。

買い物の時には大きなカバンを持ち歩かないようにしています。退院後に財布など、最低限のものが入れられる小さなカバンに替えました。気を付けていることと言えば、そのくらいですね。

盗らないための方法の工夫も大事だとは思いますが、やっぱり大事なのはこころや気持ち、考え方の変化なんだろうと思います。本当に、悪いカルマを積みたくないんです。万引きしていた頃は、自分で悪いカルマを積んで、悪い運命を引き寄せてしまっていました。何かきっかけがあったわけではないのですがそうわかってからは、自然と万引きを手放せたように思います。

今回はわたしの経験が誰かの参考になればと思い、お話をしました。万引きという悪いカルマを積むことを繰り返していれば、悪い運命を引き寄せてしまいます万引きを手放したほうが、いろんなことがうまくいく、そう感じています。

インタビューを終えて

「悪いカルマを積みたくない」、インタビュー中に繰り返しお話しされたことがとても印象に残りました。

「万引きをやめて、ちゃんとお金を払って買い物をした方が運がついてくる感じがする」とおっしゃっていましたが、わたしも盗らない生活を送れるようになって、盗らない生活の方が楽だとわかりました。その結果、万引きを繰り返す生活に戻りたくないと思えるようになり、盗りたいという気持ちも起こっていません。

「盗ってはいけない」、「盗るのはダメ」というようなガマンするという状態はやはり精神的に辛く、長く続けるのは大変だと思います。盗らない生活のメリットがわかり、自分から望んで盗らない生活を送れるようになることが回復し続けるための大きなポイントだと感じました。

インタビューに応じてくださったMさん、本当にありがとうございました。


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