書籍紹介『セルフケアの道具箱』

書籍情報

この本は長年カウンセラーとして仕事をしてきた著者が、その知識と経験をもとにセルフケアの具体的な考え方と手法を紹介しています。

著者の紹介

この本の著者は公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士で、洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長の伊藤 絵美さんです。臨床心理学・ストレス心理学・認知行動療法・スキーマ療法を専門とし、カウンセラーとして30年の経験をお持ちです。専門書から一般向けの書籍まで、多くの著書があります。

本の構成(目次)

はじめに
本書への取り組み方

第1章 とりあえず、落ち着く
第2章 誰かとつながる
第3章 ストレッサーに気づいて書き出す
第4章 ストレス反応に気づいて書き出す
第5章 マインドフルネスを実践する(身体、行動、五感を使って)
第6章 マインドフルネスを実践する(思考、イメージ、感情に気づいて手放す)
第7章 小さなコーピングをたくさん見つけよう
第8章 生きづらさの「根っこ」と「正体」を見てみよう
第9章 「呪いのことば」から「希望のことば」へ
第10章 「内なるチャイルド」を守り、癒す

おわりに

本の内容

この本には著者のカウンセラーとしての知識と経験に基づいたセルフケアの方法が具体的に紹介されています。単なる読み物ではなく、紹介されている様々なワークに実際に取り組むことを目的としています。

10章構成になっていて、1つの章に10個のワークが紹介されていて、全体として100個のワークが紹介されています。その中から自分ができるものを取り組んでいくというものです。無理することなく、今の自分にできる範囲で、できそうなワークにちょっと頑張ってとりくんでほしいとなっており、おすすめの取り組み方が書かれています。これらのワークはどれも劇的な効果をもたらすものではありませんが、継続することで最終的には回復が確かなものになるとされています。

「ストレスがたまって困っている人」や「助けが必要だとわかっているが、どうしてよいかわからない人」、「セルフケアについてじっくり考える時間的余裕がない人」、「経済的理由などにより有料カウンセリングを受けられない人」、「何らかの生きづらさを抱え、そこから何とか回復したいと願っている人」といった問題を抱える人にとってセルフケアの手助けになる本であり、依存症からの回復にも役立つ内容となっています。

わたしが読んで感じたこと

この本を読み始めて、わたしは「はじめに」で躓きました。「今、自分はどれだけ苦しいか」・「今、自分はどれだけしあわせか」という2つのものさしを使って自分自身の心身の状況をチェックしてみようというところです。自分では自分が苦しいとは感じていないものの、周囲の人から苦しそうと指摘されるような状況でした。「自分は本当に苦しいのか?」、「もっと辛い人もいるはず、こんな恵まれてることを苦しいと表現して良いのか?」など、いろいろと考えすぎてしまい、よく分からなかったのです。ずっと自分の感情を抑え込んできたことで、自分の感情がわからなくなっているということを痛感しました。そんなわたしが取り組みやすかったのが第3・4章でした。わたしは基本的に真面目で、本も始めから順番に取り組みたいタイプです。一方で白黒思考が強く、どこかで躓くと先に進めないこともよくありました。でもこの本には最初の方に「気の向くままに、好きなように取り組んでもらって全然構いません。…自分の好みに沿って取り組んでもらっても、ちゃんと効果が出るように構成していますので、どのような順序で取り組むかは、あなた自身にお任せします。」とまで書いてあり、そこまで言ってくれるのならやりたいものをやろうという気になれました。白黒思考が強く、目先の利益に囚われがちで継続が苦手な人が多いアディクトの特性を考えると、とても気を楽にさせてくれる文章だと思います。

ここに書かれているワークに真面目に取り組んでいるかと言われると、正直できていません。でもこの本を読んでどんなワークに取り組むべきかがイメージできたことで、日常生活の中で何がストレスになっているかを意識したり、ストレス反応が出ていることに気づきやすくなったり、ちょっとマインドフルネスを意識してみたりと以前より自分のこころを大切にすることができるようになりました。また、第8章以降はスキーマ療法について書かれており、依存症の根っこの問題として言われることの多い「生きづらさ」について、その説明から具体的な対応方法までとても分かりやすく書かれています。わたしは自分自身が「生きづらさ」を抱えているということに否定的でした。そして抽象的でつかみにくいことを理由に、自分の問題と向き合うことから逃げ回っていました。そんなときにこの本を読み、自分自身が「生きづらさ」を抱えているということを受け入れることができました。「生きづらさ」についてイメージがつかみにくいという人も実際にワークをやってみることでその根っこに気づきやすくなると思います。

この本は今年初めに読み、半年ぶりくらいにまた読みました。しっかりワークとして意識して取り組んでいるものがなかったので読み直すのにはちょっと後ろめたい気持ちがあったのですが、読み直してみると生活の中に取り込めているなと思うものはそれなりにありました。その結果、普段の生活の中でこころの状況を意識できるようになったり、「生きづらさ」を受け入れられるようになってきました。思い返してみると、自分の本当の気持ちと向き合ってこれなかったのは、方法がわからなかったという部分が大きかったように思います。100個のワークとして具体的な方法を知ることで、向き合い方のイメージが膨らみ、少しずつできるようになってきていると感じます。

万引きがやめられない人でも依存症と自覚していない人はたくさんいます。「万引きをやめられないという病気がある、依存症でありこころの問題と向き合う必要がある」といきなり言われても、ピンとこないという人も多いと思います。依存症になるような問題は抱えていないと、否認してしまうこともよくあることです。この本を読むことで、自分自身のこころの問題を具体的にイメージしやすくなり、依存症であることを受け入れたり、自分のこころと向き合うことがしやすくなります。1つ1つの項目は短く、とても読みやすく書かれています。依存症・クレプトマニア関連の本は手に取るのを躊躇ってしまうという人でも、このタイトルなら問題ないのではないでしょうか?ぜひ読んでみることをお勧めします。

書籍情報

著者:伊藤 絵美 
出版社:晶文社 発行日:2020年7月 定価:\1,600+税


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