「内発的動機づけ」が得られると強い!

万引きを手放すために

わたしが万引きを手放せた大きな理由の一つに、「内発的動機づけが得られた」ということがあります。内発的動機づけが盗らない生活を送るうえで、とても役立っていると感じます。

内発的動機づけとは?

「動機づけ」とは、人が目的や目標に向かって行動を起こし、達成までそれを持続させる、心理的過程を表す心理学用語です。簡単に言えば、「やる気を起こさせるもの」とか、「やる気になる理由」といったところでしょうか。

動機づけには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。

「外発的動機づけ」とは、評価や報酬、称賛や罰則など自分の外側の要素(人為的な刺激)によって引き起こされるやる気のことです。「お小遣いをもらえるから、家事を手伝う」、「テストの点数が悪いと怒られるから、頑張って勉強する」、「営業成績がボーナスに影響するので頑張る」などが、外発的動機づけの例です。クレプトマニアの場合で最もわかりやすいのは「捕まりたくない」というものです。一方「内発的動機づけ」とは、内面に沸き起こった興味や関心、意欲などによっておこるやる気のことを言います。物事に興味や関心を持つことで意欲が沸き、達成感や満足感、充実感を得たいという、人の内面的な要因によって引き起こされます。報酬や罰則などには関係なく、自分自身から発生するものです。「ゲームに没頭し、何時間もやり続ける」、「時間を忘れて調べ物をする」、「気が済むまで自分の部屋の掃除をする」などが内発的動機づけの例です。

外発的動機づけに基づいた行動は、「報酬を得る」、「罰則を回避する」など、何らかの目的を達成するためのものであるとされています。一方、内発的な動機づけに基づいた行動は行動そのものが目的なので、それに対する評価や報酬は問題になりません

内発的動機づけの特長

「やらされている・やらなければならないからやる」のではなく、「やりたくてやっている」というのが内発的動機づけです。内発的動機づけは効果が得られるまで時間がかかることがありますが、一度得られると持続性が高いという特長があります。逆に外発的動機づけの効果はすぐに得られやすいものの、一時的であり持続性が低いことが多いとされています。また、内発的動機づけは内面から湧き上がってくる感情に由来するものであり、意図的に得ることが難しいとされています。内発的動機づけを得られるか否かには個人差があり、「これをやれば内発的動機づけが得られる」というものはありません。外発的動機づけによって行動をしているうちに、しだいに興味・関心がわき内発的動機づけへと変化していくこともあると言われています。

窃盗を手放すための動機づけ

クレプトマニアが万引きなどの窃盗行為を手放すことについて考えてみます。

警察に捕まると、その後窃盗行為が止まるということが多くあります。これは多くの場合、「捕まらない」(罰則の回避)ために窃盗行為をやめているのであり、外発的動機づけに基づく行動です。外発的動機づけの効果は即時性は高いものの、持続性は低いことが多いです。そのため、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということになりやすく、捕まってからしばらくすると再び窃盗を繰り返す生活に戻ってしまうということが起こりやすいのです。外発的動機づけに基づく抑止力だけで盗らない生活を続けるのは難しいと思われます。

また外発的動機づけは、外的要因が変化してしまえば機能しない可能性があります。「お小遣いをもらえないなら、お手伝いはしない」、「営業成績に関係なくボーナス一律なら、頑張る気が起きない」といった具合です。窃盗で言えば「捕まらないために」、「仕事を失わないために」など、外的要因に基づいた抑止力は「この店は警備が甘く、捕まりにくいから大丈夫」、「仕事を失ってしまったから、もうどうでもよい」などと外的要因が変化することで抑止力として機能しなくなってしまうことが考えられます。

それが内発的動機づけになると、内面に沸き上がった感情に由来するので常に自分に付きまといます。いくら警備が甘い店で捕まる可能性が低いとしても、そのような外的要因には関係なく抑止力として作用します。「捕まりたくない」ではなく「盗りたくない」・「盗っていた自分に戻りたくない」といった感情です。

外発的動機づけによる行動を続けていると、しだいに内発的動機づけに変化していくこともあります。例えば、「捕まらないために窃盗をしない」という生活を続けているうちに、盗らない生活の方が良いという思いが生まれ、「盗らない生活を送る」という行動自体が目的になるという流れです。(罰を受けないために)やらされている・やらなければならないからやる」のではなく「(良い生活を送るために)やりたくてやっている」と自らの意志で盗らない生活を選べるようになります。

「捕まりたくない」と「盗りたくない」は全然違います。内発的動機づけを得ることは盗らない生活を継続する上で、大きな影響を及ぼすことは間違いありません。

「負の成功体験」、成功率の高さが厄介

クレプトマニアの外発的動機づけとして大きいのが「捕まりたくない」というものです。捕まった直後は「もう二度とこんな思いはしたくない!やめよう!」と思う人も多いです。でも、厄介なのが「負の成功体験」の蓄積、「捕まらずに盗れた」という経験です。圧倒的に成功(捕まらずに済んだ)経験の方が多いことがほとんどです。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」といいますが、喉元に熱いものが入ることが少ないのです。そのため「うまくやれば捕まらないだろう」、「バレなきゃいい」という発想になりやすく、外発的動機づけが機能しにくいと言えます。

やはり盗らない生活を継続するには、「捕まりたくない」という外発的動機づけだけではなく「盗りたくない」という内発的動機づけを得ることは大きな意味を持つと思います。

事件が内発的動機づけにつながることも

クレプトマニア本人による自叙伝である「万引き女子 <未来>の生活と意見」には、次のように書かれています。

「万引きくらい許される」とタカを括っていたのに2回目の刑務所に行くことが決まったとき、はじめて「あたしの人生、万引きに食いつぶされてしまう、万引き止めたい」と強く思いました。万引きをやめたら盗めなくて「損をする」ことが口惜しい気持ちより、万引きのせいで失った家族や信用や時間のほうが口惜しくなりました。

万引き女子 <未来>の生活と意見

このような内面から湧き上がってくる感情が「内発的動機づけ」です。著者の福永未来さんの場合、2回目の刑務所行きが決まった時にこのような感情を抱いたそうです。これは依存症でよく言われる「底つき体験」(もうこれ以上落ちるところはないというところまでいく経験をすること)であり、それをきっかけに内発的動機づけを得られたといえます。

多くの依存症で、「底つき体験」をきっかけに依存行為を手放すための内発的動機づけを得られることがあるとされています。しかし、クレプトマニアにとっての底つき体験は多くの場合、刑事事件を起こすことであり、それは取り返しのつかないものです。事件を起こす以外の方法で内発的動機づけを得られるのが望ましいことはいうまでもありません。

棚おろしで得られた内発的動機づけ

わたしの場合、事件を起こしたことを内発的動機づけに結び付けることはできませんでしたが、違う方法で得ることができました。その要因の一つが「棚おろし」です。

「棚おろし」とは、過去の過ちを振り返って、正直にそれを誰かに話したり、書き出したりして外に出す作業のことです。わたしは入院した時に初めて、それまで万引きを繰り返していたことを正直に他人に話をしました
それ以外にも、盗っていた頃のことを書き出してみたり、読み返したり、被害弁済をするために万引きしてしまったお店のリストを作ったりと、徹底的に棚おろしをすることを意識しました。

そうやって何度も何度も盗っていた頃のことを思い出すと、盗っていた頃の自分が情けないと思うようになりました万引きをしてまでお金を節約しようとする卑しい自分が、心底嫌になりました。そして、二度と盗っていた頃の情けない自分・卑しい自分に戻りたくないという内発的動機づけが生まれました。

被害弁済によって得られた内発的動機づけ

棚おろしのほかに内発的動機づけを強くしたことに、「被害店舗への弁済」があります。

わたしは入院中に、それまで万引きをしてきた店舗に対して郵送で弁済をしました。その際、謝罪文を同封したのですが、多くの店舗に被害弁済をしたので結構な枚数の謝罪文を書きました。何度も何度も謝罪文を書いているうちに、「なんでこんなことやっているんだろう…」と情けなくなりました。また、郵送したお金が半分以上戻ってきてしまい、受け取ってもらえないという現実を目の当たりにして、被害弁済すれば罪償いができ、気が楽になると考えていた自分の浅はかさに情けなくなりました。戻ってきたお金に同封された店舗からのお手紙のやさしさに、胸が痛くなりました

これらの経験が、自分自身の内面から発生する「盗っていた頃の生活に戻りたくない」・「二度とあのような情けない思いはしたくない」という内発的動機づけにつながりました

詳しくはこちらに書いています。

被害体験によって得られた内発的動機づけ

入院中に大切にしていたボールペンを盗まれる経験をしました。この被害体験も内発的動機づけを強まることにつながりました。

自分が大切にしていたボールペンを盗まれたことで、被害側の苦しみを感じることができ、被害者の立場に立って考えることがやっとできるようになりました。そして、自分が万引きを繰り返してきたこと・多くの被害者を生んでしまったことに強い罪悪感を持つようになり、「盗りたくない」という内発的動機づけを得られたと感じています。

詳しくはこちらに書いています。

万引きをやめたい!と思えるようになった

入院前の毎日のように万引きをしていた頃は、万引きをやめたいとは思っていませんでした。万引きをやめられないことに悩んでいましたが、正確に言えばやめたいと思えないことに悩んでしました

これで万引きをやめられなければ後がないくらいの気持ちで入院をしたのですが、内発的動機づけを得られるまでは、どこか「捕まるとまずいから”仕方なく”やめる」という感覚がありました。それが内発的動機づけを得られたことで、「万引きをやめたい!」と心から思えるようになりました「捕まりたくない」・「盗ろうと思わない」ではなく「盗りたくない」、自らの意志で、万引きをやめることを選べたように思います。

この気持ちは「自分のためにやめたい!」につながりました。

これは万引きに対する抑止力として、かなり大きく作用していると感じています。

内発的動機づけを得て不安が減った

内発的動機づけという抑止力を得られてからは、「また盗りたくなってしまうのではないか?」という不安が少なくなったように感じます。どんな場面でも、抑止力が付いてきてくれる感じがするからです。自分の中に抑止力がある、そんな感覚です。

先日、仲間がX(旧Twitter)でこのような投稿をしていました。「たとえ他人の目を誤魔化せても 自分は常に自分を見ている。 自分自身が一番厳しく確実な目撃者だ。」本当にその通りだと思います。どんな場所にももれなくついてきます。自分という目撃者に万引きをしているところを見せたくない、もう2度と情けない思いをしたくないという気持ちがあるので、警備が甘く、万引きがしやすそうな場面になっても、盗ろうとは思いません。無人販売所など、誰も見ていないなどということは関係なく、きちんとお金を入れて買い物しようと思えます。「バレなきゃいい」という気持ちで盗ることは本当に卑しい・情けないことだと思うようになったので、むしろ誰も見ていないからこそきちんと買いたいと思うくらいです。盗りたいという欲求が起こらなくなりました。この心境の変化により不安が減ったことで、気持ちがかなり楽になりました

『万引き女子~』の著者福永未来さんは、「万引きする自分ほんまにやめたい」という内発的動機づけを得られたことについて「<万引きの虫>が完全に消えた」と表現しています。福永さんにとっても内発的動機づけを得ることは、そのくらい、大きな心境の変化だったのだと思います。

わたしは今は「捕まらないために、盗らない」のではなく、「盗ってた頃の情けない自分・卑しい自分に戻りたくないから、ちゃんと買う」ようにしています。

内発的動機づけを持ち続けるために

内発的動機づけは持続性が高いと言われてはいるものの、減らないわけではありません。そして、依存症に完治はなく、一生回復し続ける必要があります。油断禁物、過信大敵です。

わたしは内発的動機づけを持ち続けるために、盗っていた頃を思い返したり、店舗への謝罪文を書いた時の情けなさを思い出したり、店舗からのお手紙を読んだりして、「盗っていた頃に戻りたくない」という内から湧き上がる気持ちを忘れないように意識しています。やはり、自分はクレプトマニアであるということを忘れないことはとても大切なことなのだと思います。

内発的動機づけを意図的に得ることは難しいとされていますが、外発的動機づけによる行動を続けることで得られることもあるとされています。盗らない生活を続けるためにも、内発的動機づけについて一度考えてみるのもよいのではないでしょうか?

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