わたしを勇気づけてくれた母の言葉
回復率の低いとされるクレプトマニアの回復に向けて、わたしを勇気づけてくれた母の言葉を紹介します。
クレプトマニアの回復は簡単ではない
最近は薬物依存症患者が再逮捕されたことが大々的に報道されるなど、依存症についての注目が高まっています。以前は薬物使用による再逮捕というと、本人の意志の弱さを追及するような報道が目立ちましたが、徐々に依存症からの回復の難しさや依存症の怖さを取り扱う報道が多くなっています。ギャンブル依存症についての注目も高まっており、世間の目も少しずつ変化してきていることを感じます。
クレプトマニアも他の依存症と同様、回復が難しいと言われています。再犯してしまう人が多いということです。
河村重実著『彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?窃盗癖という病』にはその再犯率について以下のように書かれています。
・治療継続を指示した患者のうち、8割程度が3か月以内に治療から脱落し、おそらくその8割以上が2年以内に再犯している
・3か月以上の治療継続者でも3割程度が治療中に再犯する
これは医療機関を受診し、クレプトマニアと診断された人のデータです。そもそもクレプトマニアと気づかずに窃盗を繰り返している人も多いと思われ、はっきりとクレプトマニアの数はわかっていません。ただ、回復率はかなり低いということは間違いありません。
薬物依存でも言われていますが、再発を繰り返して徐々に回復していくというのが依存症の特徴です。クレプトマニアについては、お店が至る所に存在しているので薬物以上に誘惑が多く、再犯のリスクは高いように思います。再犯せずに生活できている人は数%というレベルなのではないかと想像されます。
交通事故から回復した母
わたしの母は以前交通事故にあい、死の淵をさまよいました。
自転車に乗っていた母は車と接触し転倒、頭部を強打しました。その結果、脳挫傷を負い、脳の一部を切除しました。事故直後は命の危険もあるような大きなダメージを負い、3週間集中治療室を出ることができませんでした。3度にわたる頭部の手術を経て命は助かりましたが、脳の言葉をつかさどる部位を切除したので医師からは「言葉に障害が残る、失語症が出るだろう」と言われました。その言葉を聞いて、「もうお母さんと話をすることはできないのかもしれない」と思ったことを覚えています。
わたしは摂食障害であることを家族以外にはオープンにしていなかったこともあり、いろんなことを母に話してきました。母はいつも相談役、聞き役になってくれていました。でも、事故当時は一人暮らしをしていて、しかも仕事に没頭するためにあえて家族との連絡を減らしていました。そんなタイミングでの事故でした。母と話ができなくなるなんて、事故当時は「命が助かってくれれば、それでいい。」と思っていましたが、やはりかなりのショックでした。そして、連絡を減らしていたことを後悔しました。
今、わたしは両親と一緒に生活しています。おかげさまで母はとても元気になり、事故前とほとんど変わらない生活を送ることができています。失語症の症状は全くないわけではありませんが、日常生活ではほとんど気にならず知らない人であればわからない程度です。
母は、多くの人のサポートや本人の努力の甲斐あって、医師も驚くような回復を見せました。今でも定期的に外来受診を続けていますが、そのたびに主治医の先生に「手術の状況から考えたら、今の状況は本当にすごい。これだけ回復したのだから良しとしましょう」というようなことを言われているようです。
主治医の先生は母と同じような脳切除手術を行った方のことを引き合いに出すことが多いのですが、その方は外来受診の際も一人では何もできないような状態。普段の生活も多くの場面で介護が必要で、通院も常に家族同伴だそうです。受診の時も失語症のため椅子に座っているだけで、コミュニケーションをとることができない状態とのこと。母もそうなってもおかしくない状況でしたが、おかげさまで母は一人で外来受診に行き、主治医と笑って雑談をすることができます。主治医は「(母のように)回復するのは1~2%くらいの確率ではないか」と言います。
母はまじめな人で、リハビリにも前向きに、熱心に取り組んでいました。いろんな人の協力や運などもあったと思いますが、それらを引き寄せ、実らせたのも母の努力があってなのではないかと思っています。
母の言葉からもらった大きな勇気
そんな大きな事故を乗り越えた母が、クレプトマニア(窃盗症)治療で入院していたときにこんな言葉をかけてくれたのです。
「わたしだって1~2%と言われるような回復をした。わたしの娘なんだから(回復率数%といわれる)クレプトマニアから回復できる。自信を持って取り組みなさい。」と。
努力して1~2%の人になった母から、「あなたならできる」と言ってもらえたんです。この母の言葉は、回復率の低いと言われる依存症治療に取り組むうえで、わたしにとても大きな勇気を与えてくれました。
普段から、回復できるか・できないかは2つに一つ、確率としては五分五分というように考えるようにしています。回復の確率が低いからといって諦めてはいけないと思っています。とはいえ、回復率が低いという話を聞けば不安になってしまうのは事実。母の言葉は、そんな弱気な自分を奮い立たせてくれました。
母に負けないよう、回復し続けよう
先日のこと、母と「依存症は脳の病気だから、完治はない。一生回復し続けることを目指す」というような話をしていました。すると母が「だったらわたしみたいに脳とっちゃえばいいじゃん!」と笑うに笑えないブラックジョークを飛ばしてくれました。母なりの「take it easy!」的なメッセージだと受け止めています。そんなことを笑って言い合うことができるくらい、母は元気です。今では習い事を楽しんだり、友人との会食に出かけたり、何かとじっとしていません。ここまで回復した母を誇らしく思います。
そして、母の回復ぶりに、娘であるわたしも負けてはいられないのです。
大きな事故を乗り越えて、元気でいてくれる母のためにも、盗らない日々を積み重ねていけるように頑張りたいと思います。
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