高くない回復率、でも取組み続ければ回復できる

2021年9月11日

クレプトマニアなど依存症の回復率は高くはありません。しかし、クレプトマニアの依存行為は被害者のいる加害行為、回復を諦めてはいけません。

入院患者でも回復率は約2割というが…

わたしは入院した時に、ある医師から「入院治療でも回復率は2割程度」という話を聞きました。治療効果が高いと言われる入院でも2割程度です。わたしは入院治療を経て万引きを手放すことができましたが、2割程度という数字には2つの印象を受けます。ひとつは「そのくらいだろう」という印象、そしてもうひとつは「覚悟を決めて取り組んでいる人に限ればもっと回復率は高いだろう」という印象です。入院患者がみな治療に意欲的に取り組んでいるかと言ったらそうではありませんでした。「家族に強制的に入院させれ、本人の治療意欲が乏しい」、「入退院を繰り返すことで治療意欲・回復意欲が低下している」、「盗らない環境で過ごすために入院しており、退院後に盗れる環境に戻ることについて考えていない」など、覚悟を持って治療に取り組んでいると思えない患者も多かったです。また、入院患者は入院直前まで万引きがやめられていなかったり、裁判中であったりと喉元に熱さがあるために回復意欲が高いことも多いですが、時間経過とともに意欲が低下してしまうことも多いとが予想されます。このような人たちも母数に含まれた結果が2割程度の回復率ということになるので、覚悟を決めて入院し、意欲的に治療に取り組んでいる人に限れば、もっと高い確率で回復しているのではないでしょうか?

回復率などのデータについてはこちらに書いています。

回復率の低さ=離脱率の高さ

依存症に完治はなく、盗らない生活を送るためには回復への取り組みを継続する必要があります。しかし、退院後には通院や自助グループへの参加をやめてしまう人も多いです。「効果が感じられなかった」、「慢心・油断からもう大丈夫だと思った」、「通えない環境・状況になってしまった」などが理由に挙げられますが、この回復への取り組みの離脱率の高さがが依存症の回復率の低さと大いに関係していると感じます。通院や自助グループへの参加をやめてしまった後に再発・逮捕され、再び戻ってくるという仲間も多く、この回復への取り組みから離れてしまったことでスリップ(単発の失敗)で歯止めが利かず、再発(万引きがやめられない状況に陥る)に至ってしまうというのが、再発の王道パターンなのだろうと思います。「油断や慢心から仕事を優先したり、面倒に思ったりして通院や自助グループへの参加をやめたことがスリップ・再発につながった」という話は何人もの仲間から聞いています。また、その話をしてくれた仲間もそのような話を聞いていると思います。それでも「自分は大丈夫だろう」と思ってしまうのです。

何も回復への取り組みは通院や自助グループへの参加だけではありません。環境的に通院や自助グループへの参加が困難であったり、途中で参加しなくなった人でも回復し続けている人はいるはずです。回復を続けている人たちは仲間と連絡を取り続けていたり、SNSをうまく利用していたり、普段から意識的に自分の問題と向き合う時間を設けたり、本やネット記事などで意識的にクレプトマニアについて情報収集するなど、クレプトマニアであることを忘れない、依存症回復のための取り組みを続けているのだと思います。趣味を楽しむ時間を持ったり、人と話をしてこころのモヤモヤを外に出すなどストレスをため込まないようにするのも立派な回復への取り組みです。回復への努力をしていても結果が出るとも限りませんが、結果が出ている人は必ず努力をしています。そして覚悟を持って回復への取り組みを続ければ回復の可能性は高くなるはずです。

一般社会で生活をしながら自主的に集まる自助グループのミーティングは回復意欲の高い人が多く集まっていると感じます。わたしは自助グループへの参加していますが、クリーン(盗っていない期間)が長くなっても過信・油断することなく参加し続けている仲間からはたくさんの力をもらっています。しかし、通院や自助グループへの参加を継続していてもスリップしてしまう人もいます。そのくらい、依存症というのは回復し続けるのが難しいものです。それでも自助グループへの参加など回復への取り組みを継続できていれば、「入院治療の回復率は2割」という数字よりは高い確率で回復していると感じます。回復への取り組みを続けて入ればそれなりの結果は出るはずで、回復率の低さを恐れる必要はないと思います。

窃盗をやめることでやっとスタートラインに立てる

窃盗行為が止まったというのは、臭いものにフタをしている状態であって、依存症の根本的な問題が解決したわけではありません。窃盗がやめられないときはまずはやめることに注力するので、根本的な問題と向き合うことはとても難しいです。アルコール依存症者がお酒を飲み続けている状態で根本的な問題と向き合うことが難しいのと同じです。窃盗行為が止まって、やっと問題と向き合うことができますやっと回復へのスタートラインに立てた状態です。

ところが、多くの人が窃盗行為が止まるともう大丈夫だと勘違いします。一時的にやめられても、回復への取り組みを怠れば、再び窃盗行為に及ぶようになる可能性が高いです。それがクレプトマニアであり、依存症です。せっかく窃盗行為が止まって、回復へのスタートラインに立てたのにそれを手放してしまったり、歩み始めてももう大丈夫だと思ってしまう人が本当に多いです。そして、再び窃盗行為がやめられなくなった時に「あのとき、取り組みを続けていれば…」と思うのです。

窃盗行為が止まり衝動も収まれば、回復への取り組みの優先順位も下がるのは当然です。そこには、忘れたい過去の出来事として、臭いものにフタをしたまま目を向けないようにしたい、なるべく触れたくないという思いが生まれることもあります。特に家族や周囲にバレずに済んでいる場合は、それを隠し続けるために回復への取り組みも大っぴらにできないため、おろそかになってしまいがちです。でも、逆です。周囲にバレないように盗らない生活を続け回復を目指していくためには、取り組みをおろそかにしてはダメなのです。

脳は窃盗行為で得た快楽を覚えています。もう、脳内に回路ができてしまっています。抱えきれないような苦しい・辛い状況に追い込まれた時の逃げ道として、窃盗行為があることを知ってしまっています。3年、5年、10年など、長期間窃盗行為が止まっていても再発してしまうこともあるのがクレプトマニアです。その時期によって回復への取り組みの優先順位を下げても、盗らない生活を継続することは可能だと思います。ただし、ゼロにすることは非常にリスクが高いです。優先順位を下げたとしても、細く長く、回復への取り組みを続けていく必要があります。

慌てず、焦らず、諦めず

依存症回復への取り組みはすぐに効果が出るものではありません。「慌てず、焦らず、諦めず」、じっくりと取り組むことが必要になります。また、効果が出ていないと思っていても、「取り組んでいるからこの程度で済んでいる」ということもあります。例えば「自助グループに通い続けているのに盗りたい気持ちがなくならない、盗りたい気持ちをガマンする生活が続いている」というような場合、「自助グループに参加しているから、盗りたい気持ちが起こってもガマンすることができている」とも言えます。参加をやめてしまったら、衝動を抑えられずに万引きしてしまう可能性が高まります。プラスの方向に作用しないと効果として感じることは難しいですが、取り組みの効果があることで現状キープやマイナスを少なくすることができている可能性もあります。効果が実感できない状況になっても、いかに気持ちを切らさずに回復への取り組みを継続できるかが重要になります。諦めずに回復への取り組みを続けること、これが回復者になる唯一の方法なのではないかと思います。

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スリップで留めればまたチャレンジできる

仮に2割だとしても、5回チャレンジすれば1回は成功するということです。スリップしてもやり直せればまたチャンスはきます。この「スリップしてもやり直せる状況に留まる」ことが本当に大切になります。スリップ、つまり単発の失敗をしたときにそこで留められずに再発してしまい逮捕まで至ってしまうと、5回チャレンジするには刑務所に行かなくてはいけないという計算になってしまいます。捕まるまでやめられない、こうなる前に何らかの手を打たなくてはなりません。

多くの場合、スリップした1回目は成功します。ここで捕まったら、それはスリップしたことが悪いと諦めてください。それは犯罪なので仕方ないです。ですが、成功したからと言って一人で抱え込んではダメです。クレプトマニアなどの依存症は脳の病気です。脳に万引きをすることで快楽を感じる回路が出来上がってしまっていて、どんなにクリーンが長くても、一度スイッチが入ってしまうと一人でスイッチをオフにするのは困難です。「スリップしたが、これを最後にすればいいから黙っておこう」、こうなってしまうと再発まっしぐらです。すぐに誰かに正直に話すなどして、助けを求めましょう。そして、単発の失敗で留め、また盗らない日々に戻ることができれば、再び2割へ入るための挑戦が始まります。これを繰り返していれば、いずれ2割に入れるはずです。

スリップで留めることについて「彼女たちはなぜ万引きがやめられないのか?窃盗癖という病」という本には次のような取り組みが紹介されています。

・治療中に万引きした場合、その事実を主治医に報告し、返金と迷惑料の支払いおよび謝罪をしなければならず(疾病利得を許さない)、これが治療継続のルール。
・金品の返済を3~5回するとほとんどの患者が窃盗をやめる。

スリップした時に正直に申告すること、そして返金と迷惑料の支払いをすることで金銭的な得をしないことで再発に至ることを予防しています。そしてこれを3~5回繰り返すとほとんどの患者が窃盗をやめるということは、裏返せば他の依存症と同様にスリップしながら回復していくことを想定する必要があるということです。スリップで留め逮捕に至る前に盗らない生活に戻ることがいかに重要かを表していると言えます。

回復するかしないか、事象は2つ

次のように考えることもできます。
回復するかどうか、確率は2割であっても事象で言えば2つです。つまり2分の1、2択であるとも言えます。試験の合格率で言えば「どんなに合格率の高い試験でも油断してはいけないし、どんなに合格率の低い試験でも諦めてはいけない」、そう考えられます。万引きを手放して日が浅く、盗りたい気持ちをガマンする状態の人でも諦めてはいけないし、クリーンが長く続き盗りたい気持ちも収まっている人でも油断は禁物です。また、回復する確率が低いからスリップするのは仕方ないという考え方もよくないと思います。回復率は低くても、盗るか盗らないかは2択です。2択のうち、盗らない選択をする一日を積み重ねていくことが回復し続けるということなのではないでしょか。

クレプトマニアになる確率から思えば…

ある難病当事者のブログにあった文章を見て、これはクレプトマニアにも当てはまると思いました。

『勝算は低い戦いです。しかし”可能性”はあるわけです。つまりは結局のところ確率なんてものはただの数字に過ぎないわけで、実際の戦いには関係がないと思っています。「お前がこの戦いに勝つ確率は100分の1だ」と言われたら、「私はクレプトマニアになりました、クレプトマニアになる人は多くはありません。そのことを考えれば回復率の低さなんて、大した問題ではありません。」と応えます。』

クレプトマニアの回復率は確かに低いです。その数字は受け止め方次第で、プラスにもマイナスにも解釈できます。簡単ではないからこそ挑戦する甲斐があり、の達成感・満足感があるはずです。わたしの場合、万引きをすることで達成感・満足感を得ていました。それを万引きを手放すことで回復し続けることの満足感・達成感に置き換えられた部分があります。これは回復率が低いからこそ得られているものです。できない理由・やらない理由を探すのではなく、どうすればできるのかを考え、回復率が低いということをプラスの力に変えていくことが大切だと思います。

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