書籍紹介『盗撮をやめられない男たち』

書籍情報

著者の紹介

この本の著者は精神保健福祉士・社会福祉士で大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さんです。ソーシャルワーカーとしてアルコール・ギャンブル・薬物・摂食障害・虐待・DV・クレプトマニアなど様々な依存症治療に長く携わっていらっしゃいます。専門は加害者臨床で、「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいらっしゃいます。

本の構成(目次)

第1章 身近で起きている盗撮被害の実態
第2章 盗撮をはびこらせる日本社会
第3章 盗撮をやめられなくなる理由
第4章 なぜ男性が盗撮にハマるのか
第5章 証言・わたしが盗撮した理由
第6章 再犯防止と回復のために
第7章 加害者家族の抱える苦悩
第8章 「盗撮罪」法制化に向けて

本の内容

第1・2章では、日本社会での盗撮被害の実態がデータに基づいて解説されています。そして、第3~6章では盗撮は依存症であるとして、依存症全般の解説から盗撮がやめられなくなる理由やその具体的な事例までが書かれています。また、再犯防止・回復への取り組みについて、司法の問題点や医療機関での治療プログラムが紹介されています。第7章では加害者家族の抱える苦悩が紹介され、第8章では「盗撮罪」の法制化に向けての著者と弁護士による対談が掲載されています。

一般向けに書かれた本で、依存症全般の用語の解説も丁寧にされています。多くの具体例が盛り込まれており、とても分かりやすいです。身近に起こる犯罪行為が依存症であり、大きな社会問題になっている状況が理解できる内容となっています。

わたしが読んで感じたこと

性依存症のひとつである窃視障害(盗撮・のぞき)は行為依存の中でも被害者のいる犯罪行為であるという点やそのメカニズムから、クレプトマニアと共通点が多くあります。そのことが第3章に「盗撮と万引きの奇妙な共通点」として、丁寧に書かれています。読んでいて、「その依存行為で得ていた感覚、わかる」というような表現がたくさんあります。その犯罪行為に対して「認知の歪み」があり、犯罪であるということを軽視してしまいがちであり、罪悪感が低いと言うのが共通する問題です。そしてこの認知の歪みを修正していくのが依存行為を手放す上で大きなポイントになると思います。

認知の歪みについて、クレプトマニアによくあるのが「売れ残ればどうせ捨ててしまうのだから、盗ってもいいだろう」、「万引きされやすいレイアウトにしているお店が悪い」、「こんなにたくさん買っているんだから、一つくらい万引きしてもいいだろう」などというものです。普通の人からすれば、そんな理論通用するわけない!というようなものですが、クレプトマニアにとって陥りがちな思考パターンです。間違っているとはわかってもどうも納得できないというか、ピンと来なくて犯罪であるという意識が持ちにくいこともあります。盗撮を繰り返す人にも「相手に気づかれていなければ、相手を傷つけていないから問題ない」、「痴漢と比べると、相手に触れていないから大したことではない」などという認知の歪みがあります。これを見ると「盗撮は犯罪!そんな理論許されるわけない!」と考えることができます。そのことから「依存症者には依存行為を正当化する認知の歪みがある」、「犯罪行為なのに認知の歪みがあることでその事実を軽視しがち」ということがつかみやすくなるのではないかと思います。クレプトマニア当事者やその家族がこの本を読むことで、依存行為としての盗撮を理解することができ、結果的にクレプトマニアについて理解を深めることにつながるのではないかと感じます。一般向けにとても分かりやすく書かれているので、とてもおすすめです。

書籍情報

著者:斉藤 章佳(精神保健福祉士・社会福祉士 大船榎本クリニック精神保健福祉部長)
出版社:扶桑社 発行日:2021年9月 定価:\1,600+税

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