自助グループでの3つの経験

わたしの実体験,万引きを手放すために

依存症の回復に効果があるとされているのが自助グループです。わたしは自助グループとのかかわり方で、3つの経験をしました。

自助グループとのかかわり方 3つの段階

わたしの自助グループとのかかわり方は、大きく3つの段階に分かれます。

①中学生の時の摂食障害の自助グループ(1回だけ)
②クレプトマニアの自助グループのミーティングに通うも、万引きし続けていることを話せず、万引きがやめられなかった時期
③過去のことも正直に話し、ミーティングに参加し続けながら盗らない生活を続けている時期

初めての自助グループは摂食障害のグループ

初めて自助グループのミーティングに参加したのは中学生の時、摂食障害の自助グループでした。自助グループの存在を知った親戚から参加を勧められましたが、そのイメージがほとんどない状態、「摂食障害の人が集まっているから行ってみる」程度の感覚で参加したと記憶しています。1時間半のミーティングでしたが、話の内容など詳しいことは覚えていません。

覚えているのは、「あ、違うな」と感じたということです。当時は中学生で、他の参加者と年代が違ったことも影響したのかもしれません。参加者の正直に弱みをさらけ出す姿は、言葉を選ばずに言えば、「傷をなめあっている、痛々しい人たち」・「自分とは違う世界の人たち」に見えました。自助グループ初参加は、聞くだけで発言はせずに終わりました。そして、それっきり参加することはありませんでした。

今考えてみると、自分が摂食障害であることを否認していたために違う世界の人たちに見えたのだと思います。他の参加者が弱さをさらけ出す姿を否定し、距離を置くことで、自分が摂食障害であることを否定していたのだと感じています。

自助グループに通い始めたが、万引きは止められなかった

次に自助グループに参加したのは、クレプトマニアの自助グループです。警察に捕まり、通院を始めたのとほぼ同じ時期に初めて参加しました。この時はクレプトマニアについての事前知識があり、自助グループの役割や効果を知った状態でした。そのため、自分の意志で参加しました。

クレプトマニアのミーティングに初めて参加した時には、「また参加したい!」と思いました。仲間の話を聞くことで、同じ悩みを持った人が実在するということが分かったからです。クレプトマニアについて体験談を読んでいましたが、どこかドラマの世界の話のような感覚がありました。でも、実際に話を聞きクレプトマニアについて共感することで、同じ悩みを持った人がいると再認識し、気持ちがかなり楽になりました。自分がクレプトマニアであることは認めていましたが、ミーティングに参加することでクレプトマニアであることをより強く認識するようになりました。

しかし、わたしはここで大きな失敗を犯します自分を良く見せたいスイッチが入ってしまい、毎日のように万引きをしていたのに、それを正直に話すことができなかったのです。しかも、正直に話さないことを「盗っていることを隠してはいるけど、”盗っていない”とウソをついているわけではないから悪くない」と正当化していました。今では隠すことも嘘をつくことも、正直ではないからダメと思えていますが、その時は自分なりの理論で正直に話すことから逃げ回っていました。

その根底には「万引きをやめたいと思えていない」ということがありました。やめられないことをマズいとは持っていましたが、正確に言えば「やめたいと思えないこと」に悩んでいました。やめたいと思えていなかったために、自助グループの仲間にでさえも「万引きしていることがバレたくない」と考えてしまったのだと思います。さらに失敗だったのは、ミーティングに通っている人は万引きを止められている人だと勘違いしてしまったことです。初めて参加した時に、「今も盗っている」とはっきりと話した人はおらず、逆に年単位で盗らない生活を送れているという話を聞きました。「盗っていた」ことは話していても、「今も盗っている」ことを話す人はいないように感じてしまいました。その結果、「万引きを止められている自分」を演じてしまいました

参加を重ねるうちに、「今もやめられていない」という仲間の正直な話を聞くことができましたが、その頃には「盗らない生活を送れていると思われているだろうから、今更正直に話せない」という、良く見せたいスイッチが完全に入った状態になっていました。そして、盗り続けている間は自助グループを始め、誰にもその事実を言いませんでした。

その結果、ミーティングに通い続けても万引きがやめられませんでした。これが10か月続きました。

聞くことで自分の正直な気持ちに気づいた

万引きし続けていることを隠して参加を続けていましたが、効果を感じなかったわけではありません。仲間の話を聞き続ける中でいろんな気付きを得ていたので、ミーティングに通う意味を感じていました。

参加を続ける中で、万引きがやめられないことを正直に話す仲間に出会いました。ミーティングに通っていてもやめられていない人がいること、そしてそれを正直に話せる人がいることを知り、現実から逃げ回っている自分に危機感を覚えるようになりました。更に、「やめたいと思えていない」という仲間の話を聞き、その話に強く共感することで「万引きを止めなきゃまずいとは思うが、やめたいとは思えていない」という自分の正直な気持ちに気づきました「万引きをしている事実」と「手放すことを拒んでいる気持ち」があること、そしてそれに向き合うことから逃げていることがはっきりとわかりました

そこまでは至りましたが、その思いを正直に外に出すことはできませんでした。

仲間の話を聞いて入院を決意

ミーティングに通い続けてよかったのは仲間の入院経験の話を聞き、入院を決意できたことです。

「入院して、自分の内面に向き合い、澱のようにたまったどろどろした部分をミーティングで全部出し切った。その結果、今までとは全然違う生活が送れるようになった。とてもすっきりしているし、盗りたい気持ちは起こっていない。」そう話す仲間の目はとても力強く、わたしも続きたいと思いました。そして、「入院して盗れない環境に身を置き、正直に話せれば万引きがやめられる」という、これをやれば万引きを手放せるのではないかという方法を具体的にイメージすることができました。万引きを止められず、しかもそれを正直に話せない状況を抜け出すには、入院しかないという思いが強くなりました。

毎日万引きをする生活は続いていましたが、万引きを手放すために入院する覚悟ができたのはミーティングに通い続け、入院を経験した仲間の話を聞けたからだと思っています。

自助グループでも正直に話し、盗らない生活を送れるようになった

地元の自助グループのミーティングでやっと正直に話せたのは、入院中の外泊時のことです。過去のことも含めて地元の自助グループでも正直に話すというのは、入院前から決めていました。入院中の院内ミーティング、主治医、外泊で家族に正直に話すという段階を経て、自助グループでもやっと正直に話すことができました。もう、万引きをやめるためには「自分を良く見せたい」とか「恥ずかしい」などと言っている場合ではないと開き直れたからだと思います。万引きが止まって、過去のことになったから話せたというのもあるかもしれません。

一度正直に話すと、ミーティングでも段々と自分の内面を出せるようになりました。正直になれていなかったときは、仲間に対しどこか後ろめたさがありましたがそれもなくなりました。正直な楽な自分で参加できるようになったので、以前よりも穏やかな気持ちでミーティングに参加できています。その結果、仲間の話から得られることが多くなったように思います。仲間の話がこころに響くようになったというか、前よりずっと話が聴けるようになりました。

正直に話せて、寂しさが減った

自助グループに参加するようになった時点で、表面的にはつながれた状態でした。でも、振り返って思うのは、その時点では本当の意味でつながれてはいなかったのではないかということです。仲間の話を聞き、同じような悩みに共感できたことでこころが楽になりはしました。でも正直に話せていない、隠し事をしている後ろめたさから、どこか仲間と距離があったように思います。こころの壁を取り払うことができず、孤立している寂しい感覚が消えませんでした。

入院して、万引きがやめられなかった事実をやっと正直に話すことができて、グッと心が楽になりました。このことで本当の意味でつながれたように思います。正直に本音を出せたことで、孤立したような寂しい感覚が減ったことは、盗ることでその寂しさを埋めようとする必要がなくなることにつながっていると感じます。

自助グループをうまく利用するために

自助グループの仲間は、依存行為を手放せているとは限らないと思います。もし参加する時点で万引きを手放せていなくても、決して場違いではありません。そして、やめられていないなら、そのことをなるべく早い段階で正直に話すことが重要だと感じています。

わたしはミーティングに参加しても、万引きがやめられないことを正直に話せない期間が長く続きました。仲間の話を聞くことで得るものがたくさんあったので、通うことに意味はありました。でも、その効果は半減、いや8割減ぐらいだったのではないかと。「もし自助グループで正直に話せていたら、入院しなくても万引きを手放せたかもしれない。」そう思うくらい、正直に話せるとその効果は違います。そしてそれ以前に、自助グループにつながれていなかったら、今の盗らない生活は考えられないです。そのくらい、自助グループのミーティングにつながれたことは回復への大きなきっかけになったと思います。

まずは自助グループに参加すること参加し続けること、そして可能な範囲で正直に。わたしの経験を反面教師にしてほしいと思います。

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