コロナ禍がクレプトマニアに与える影響

思うことあれこれ

2020年4月、コロナウイルス感染拡大により非常事態宣言が出され、日常生活に大きな影響を及ぼしています。コロナ禍がクレプトマニアに与える影響について、考えてみました。

なぜ、この話題を書こうと思ったか?

コロナの影響で生活が大きく変わり、わたし自身いろんなストレスを感じています。依存症患者にとってはスリップしたり、症状が強くなったりしやすい状況だなと感じていました。そんなとき、スリップして捕まってしまったクレプトマニアが複数いるという話を聞きました。「やっぱりな」と思うと同時に、「クレプトマニアが感じやすい悩みや盗りたくなる状況などを共感できれば、少しは気持ちが楽になりスリップを減らせるかもしれない。」とも思いました。

どこまで共感を生むことができるかわかりませんが、クレプトマニアの一人として今感じている「しんどい状況」や「陥りがちな考え方」等々、「クレプトマニアあるある」を文章にしてみたいと思います。

自助グループが中止になっている

緊急事態宣言の発令により多くの集会場が休止になっており、ミーティングを中止している自助グループが多くあります。ミーティングへの参加を精神的な拠り所としている依存症仲間はとても多く、ミーティングの中止は依存症状の増悪を招きやすい状況です。

クレプトマニアは、依存行為が犯罪であるため、他の依存症以上に打ち明けている相手が少ない人が多いです。
また打ち明けていたとしても、必ずしも本音で話せているわけではありません。そのためミーティングが中止になると、クレプトマニアとしての悩みを外に出す場がなくなってしまう人が多く、中止の影響を強く受けやすいと言えます。そんな中、ミーティングができない現状を打開しようと、オンラインミーティングを開催している自助グループもあります。わたしもギャンブル依存症の方が主催するオンラインのオープンミーティング(依存症の種類を問わないミーティング)に参加してみました。いろんな依存症の方の話を聞くことができて、とても有意義でした。

収入の減少による枯渇恐怖の増悪

外出自粛や休業要請などで、大きく経済活動が落ちこみ、景気が低下しています。その影響で収入が減っている人や職を失った人が多くいます。また、今はどうにかなっていても今後の見通しが立たないなど、経済的な不安を抱える人はとても多いです。

クレプトマニアの多くは枯渇恐怖を抱えています。ものやお金が減ってしまうことに対して、強い不安や恐怖心を抱いてしまうため、その気持ちが窃盗欲求につながりやすいのです。収入の減少は枯渇恐怖を強め、その結果盗りたい衝動が強まり窃盗行為につながってしまうことが懸念されます。

買い占めによって刺激される盗りたい欲求

テレワーク実施や休校、さらに外出自粛要請や飲食店の休業により、自宅で食事をする機会が増えています。
その結果、食品の購入量が増え、スーパーの売り上げが伸びています。また、マスクやアルコールなどの感染防止グッズや日用品を取り扱っているドラッグストアも大盛況です。混雑した店内では、商品が山積みになっていたり、無造作に並べられていることがあります。そのような状況では「ちょっとくらい盗ってもばれないだろう」という発想が起こりやすくなります。

また、一部商品で買い占めが起こり、商品棚が空になっている様子が見受けられます。このような空になっている商品棚や他の人がまとめ買いをしている様子を目の当たりにすると、ものがなくなることに対する「枯渇恐怖」が強くなりやすいです。また、枯渇恐怖に対抗する手段としての「ため込み行動」が起こりやすくなります。なくなってしまうことが不安で、ストックの量がどんどん多くなってしまうというものです。

その結果、「お金は減らしたくないが、ものはため込みたい」という考えにつながり、窃盗行為につながってしまうことがあります。

購入数が制限されると…

買い占めが問題になっている商品については、「お1人様1点限り」・「1家族当たり1点限り」などと購入数に制限があることが多くあります。「ため込みたいからたくさんほしい、でも購入制限がある」、このような場面でありがちなのが「買えないなら盗ってしまえ」という発想です。「お1人様1点限り」のものを複数手に入れるために、1つは買って他は盗ってしまおうというものです。枯渇恐怖やため込みたい気持ちが強くなった結果、このような発想に至ってしまうのです。

いつも買うものが高いと損した気分になる

今、わたしが一番感じているのがこの問題です。

この騒動で、いつも定期的に買っていた商品が品薄になっています。値段が高いものならあったのですが、それを買うことはとても損した気分になります。だったら買うことを諦めたり違うもので代用すればいいとも思うのですが、これじゃなきゃ許せないというマイルールがあり、それが難しいのです。

クレプトマニアが損した気分を抱くと、損した分を盗って得をすることで穴埋めしようと考え、窃盗衝動につながってしまうことがあります。今のわたしは盗りたい気持ちにまでは至っていませんが、すごく損した気分になり心がざわつきます。そして、盗っていた頃ならば万引きがひどくなっていただろうなと感じています。

飲食店の代わりに買い物に行くリスク

依存行為への欲求が高まりやすい要因を表す言葉に、「HALT」があります。Hunger(空腹)、Anger(怒り)、Loneliness(孤独)、Tired(疲労)の頭文字をつなげたもので、クレプトマニアはこのような場面で窃盗衝動にかられやすいです。

HALTが当てはまる場面に、仕事が終わった時間があります。仕事の後はHALTになっていることが多く、万引きリスクが高いです。対処法として、買い物には行かずに飲食店で食事をして帰るという方法があります。しかし、緊急事態宣言により多くの飲食店で営業時間を短くしたり、営業を取りやめたりしています。その結果、いつもなら外食するところをスーパーやコンビニで買い物をして帰るという状況になることも考えられます。このような場面で、お店に行くことは万引き衝動にかられやすいため注意が必要です。

感染予防対策が万引きを助長するかも?

感染予防のために様々な対策が求められていますが、中にはクレプトマニアにとって窃盗欲求につながりやすいものがあると感じています。

緊急事態宣言を受けて、不要不急の外出自粛が呼びかけられていますが、食品や日用品の買い物は認められています。そのため、外出自粛を理由に買い物に行くことを抑えることはできません。むしろ他の外出を控えることでたまったストレスを、買い物の場で発散しようとしてしまいます

また、密な状況を作らないようにするため、混雑する時間をさけたり入店人数を少なくするよう求められることも、万引きにつながりやすいと言えます。万引きをしないように、いつもなら家族と一緒に週末にまとめ買いをしていたが、混雑を避けるために平日の空いている時間に一人で買い物に行って万引きをしてしまったというような展開です。買い物の回数を少なくするために、適度なまとめ買いをすることが呼びかけられています。まとめ買いをすると、「こんなにたくさん買うんだから、一つくらい盗ってもいいだろう」という発想に至りがちです。

さらにレジに並ぶ際には間隔をあけるように呼びかけられていますが、そのことでレジがいつも以上に混雑しているように見えます。そのような場面では、「レジに並んでいる時間がないから、盗ってしまえ」と考えてしまうということもあり得ます。

このように、今呼びかけられている感染予防対策の中には、万引きを助長する可能性があるものも多くあります。このような、ちょっとした行動の変化も万引きに結び付けようと考えてしまうのがクレプトマニアと言えるのかもしれません。

ギャンブル依存症へのアンケート結果から思うこと

「ギャンブル依存症問題を考える会」が「コロナ禍におけるギャンブル依存症者と家族への影響」についてのインターネット調査を行っています。同じ依存症という問題を抱える人に対するアンケートであり、とても興味深い内容となっています。

コロナ禍におけるギャンブル依存症者と家族への影響を緊急調査

アンケートによると、ギャンブル依存症当事者(回復者)の40%以上が「漠然とした不安感を抱えている」と答えており、さらに、約70%の人が「回復前に今のような状況になっていたら、ギャンブルで不安を払しょくしていたと思う」と答えています

わたしは今、盗らない生活を送れていますが、アンケート結果と同じように感じています。毎日のように万引きしていた頃に今の状況になっていたら、盗る量が増えたり、盗り方が大胆になっていたのではないかと思います。その結果、捕まるリスクも高くなることが容易に想像できます。

ギャンブル依存症(パチンコ・スロットなど)では店舗が休業していることで、やりたくてもできる場所がなくなっています。さらに不要不急の用事であると言われることも多く、結果として症状が抑えられているということもあるようです。しかし、クレプトマニアの場合にはスーパーやドラッグストアなどは営業しています。さらに、日用品の買い物は必要な外出として認められており、堂々と買い物に行けるため誘惑はいつでも忍び寄ってきます

ストレスがたまりやすい状況であるのは、みんな同じです。どんな依存症であれ、症状が強くなりやすい状況であることに変わりはありません。

「コロナのせいで…」と言いたくない

「コロナ鬱」という言葉が生み出されていますが、とにかく今の状況はストレスがたまりやすいです。そして、あらゆるストレスが最終的に「窃盗衝動」さらに「窃盗行為」につながってしまいがちなのがクレプトマニアです。

実際に、仕事がなくなってしまったり、収入が減ってしまったりと精神的に追い詰められている人がたくさんいます。直接的な影響はなくても、感染への不安を感じていたり、連日のコロナ関連の報道にうんざりしていたりと、普通でいられる方が不思議なくらいの状況です。そんな今の状況で盗ってしまったら、「コロナのせいで…」とコロナの影響を理由にすると思います。でもそれって、「捕まっても、コロナのせいにすれば許してもらえるかもしれない」、「コロナのせいにすれば、それが言い訳になる」という、心の甘えが少なからずあると思うんです。そんな下心を持ちながら、盗ってしまうのはちょっとカッコ悪くないですか?コロナのせいと言い訳しながら、一緒に頑張っている仲間や家族、そしてそれ以上に自分を裏切ってしまうのは情けなくないですか?

わたしが、もし今万引きして捕まったら、ほぼ間違いなく「コロナのせいでストレスがたまって…」って言い訳するんですよ。実際影響があると思いますが、それ以上にコロナのせいにすれば許されるかもという甘えがあるからです。警察の取り調べではクレプトマニアについて理解してもらえないことが多いので、そうやって取り繕うと思うんです。でも、それは本当に情けないし、かっこ悪い。コロナの影響を「勝ち負け」の表現に当てはめるのはよくないかもしれませんが、コロナを理由にできるという甘えから万引きしてしまったら、それこそ「負け」なんじゃないかなと。そんな自分にはなりたくない、コロナを理由に盗っていた頃の情けない自分に戻りたくないんです。だから盗らないように頑張ろうと思います。

コロナの影響は、時間はかかるかもしれませんがいずれは落ち着いてくるときがきます。でも、捕まってしまったら、その過去を消すことはできません。コロナの影響が一生ついて回ってしまうことになります。

今の状況はクレプトマニアにとって、盗りたくなりやすい状況であることは、間違いないです。でも、だからこそ、ここで踏ん張ることに意味があると思うのです。絶対に捕まらない唯一の方法は、盗らないことです。盗りたくなっても、とりあえず今日一日、ガマンです。明日になったら、盗ってもいいです。そうやって一日一日を積み重ねていけば、盗らない日々を送ることができます。

そうはいっても、クレプトマニアは依存症、どうしても衝動を抑えられないこともあると思います。もし盗ってしまっても、自分を責めすぎない方がいいです。今の状況は盗りたくなりやすい状況、スリップ(単発的な失敗)しやすい状況ですから。でも、盗ることとそれを隠し続けることは別問題です。盗ってしまったことをどこかで誰かに正直に打ち明けて気持ちを立て直す、何らかの方法で被害店舗に弁済するなど、次の万引きにつなげない、つまり再発(依存行為を繰り返してしまう状況)に至らないようにする必要があると思います。

こんな状況だからこそ、一日一日を大切に、盗らない日々を積み重ねられるように、みんなで頑張っていきたい、そう思います。

盗らないための工夫や考え方はこちらで紹介しています。
カテゴリー 「盗らないための工夫」  「万引きを手放すために

一人でも多くの人に情報を届けたい

ストレスフルな今の状況の中で、一人でも多くの万引きで悩んでいる人に情報を届けたいと思っています。そして、それにより少しでもクレプトマニアによる万引きを減らしたいと考えています。

どんな些細なことでも結構です。意見やアドバイス、「クレプトマニアあるある」など、コメントをお寄せいただけるととてもうれしいです

関連する項目はこちらです。