ことばにして外に出し、俯瞰してみる

万引きを手放すために

盗らない生活を送れるようになるうえで、自分自身の内面をことばにして外に出し、俯瞰することができるようになってきたことが大きく影響しています。

俯瞰とは?

俯瞰(ふかん)とは物理的に「高いところから見渡すこと」という意味で、考え方の例えとしても使われることがあります。「広い視野でものごとを見る」、「大局的な視野に立つ」、「客観的に全体像をとらえる」というような意味で使われます。

外に出さずに内側を覗き込んでいた

わたしの場合、以前は自分のこころの内側を外に出さないようにしていました。負の感情については特にそうです。ことばにして外に出すと、それが反響・増幅し、どんどん大きくなってしんどくなる気がしていたからです。外に出さないことはもちろん、なるべく見ないようにしていました。自分の気持ちを抑え込むことが習慣化し、無意識に行うようになってしまいました。その結果、自分で自分の本当の気持ちがわからず、出そうとしても出せなくなりました。ちょっとした辛さには気付けずスルー、辛いと思えた時には相当しんどい状況になっていました。更には自分から辛いと言えず、周囲から心配されても「大丈夫です!」と答えてしまうのです。

その頃は自分自身の問題と向き合うというと、自分の中(内側)を覗き込むようなイメージを持っていました。こころという箱の中を覗き込むようなイメージです。今考えるとその方法では、きちんと自分自身と向き合うことはできていなかったと思います。こころの箱の中は暗くて、よく見えていませんでした。箱の入り口は小さくいろんな問題が折り重なるように入っていて、入り口から覗き込んだところでほんの一部しか見えていませんでした。また、一部しか見えないことを利用して、見たくないことは意識的・無意識的に見えないところに抑え込んでいたとも感じています。「見たくないもの、見せたくないものは隠そう」とするよくない癖がついてしまっていました。

自分の気持ちを内側に閉じ込めることが当たり前になった結果、多くのストレスを抱えた状態になりました。その抑え込めているつもりの負の感情を発散する方法として、万引きや過食嘔吐などの依存行為に頼るようになってしまったのだと思います。また、他人からの評価を気にして自分のダメな部分を隠そうとする癖もついていました。こころだけでなく行動についても、上手くいかないことや失敗などは「嘘をつく・誤魔化す・隠す」、そんなことを多く行うようになっていました。

ことばにして外に出すと、新たな発見がある

わたしがこころの中をことばにして外に出すことの効果を感じたのは、自助グループのミーティングです。ミーティングで自分の内面や過去の出来事を話す(外に出す)ためには、自分自身と向き合う必要があります。ぼんやりとしたこころの声をことばにしなくてはならないからです。このように感情などのこころの内面をことばにすることを心理学的には「言語化」と言います。ことばを使って自分の感情を考えのレベルに落として、自分の感情を整理していくのです。そして、ことばとして外に出してみるとぼんやりとした感情が具体的になったったり、輪郭がはっきりしたりします。思考は言語化しないと頭に残らないという意見もあるそうです。頭の中であれやこれやと考えても、それは具体性がなく、言語化しないために頭にも残らず「いっぱい悩んだ」と言う形跡だけが残り、モヤモヤした感覚だけが残ってしまいがちです。言語化できれば、問題点が具体的になり、それだけで気持ちが楽になったり悩みの解消につながることもあります。

わたしもミーティングに参加するまでは頭の中でぐるぐると考えを巡らせることが多く、言語化の作業は簡単ではありませんでした。それでもミーティングへの参加を重ねることで、自分の話をしたり他人の話を聞くことで少しずつ言語化ができるようになっていきました。そして言語化することで新たな発見が生まれ、より自分自身の問題と向き合うことができるようになりました。

ミーティングのいいところは口からことばにして出すことで、その場の雰囲気に引っ張られるようにしてどんどんと話が広がっていくことです。あることがらについて話を始めても、そこからどんどんと話が広がっていくことで自分でも気が付いていない本音がぽろっと出たりします。文章にして書き出すのとはまた違った感覚です。

こころの中をことばにして外に出すと、それは押し込まれて縮こまっていたのであって、実際には思っていたよりもずっと大きなものだと気づくこともありました。一部を外に出すことで、重なって見えなくなっていたものが見えてきたこともありました。小さいものと思って外に出したら、数珠つなぎにどんどんと思いがあふれ出てくることもありました。気持ちを外に出すことで、自分でも気づいていないこころの中がどんどんと見えてくることに気が付きました。

また、嫌な感情や不安な気持ちなど負の感情をため込まずに外に出すことで、こころが楽になるという効果を得ることもできました。こころの内側は外に出さない方がいいという今までの考え方は、まったく逆だったのだと強く感じました。

外に出したものを俯瞰してみる

外に出して俯瞰してみると、違う発見があったりもします。上から見たり、横から見たり、一歩離れてみたり、今までとは違う位置・角度から見ることで新たな一面が見えてくることはよくあります。良い意味で、他と比較することもしやすくなります

また、外に出すことで他人に見てもらうこともできるので、アドバイスや新たな意見をもらうこともできます。一人で抱え込んでいたらなかなか解決しないことでも、外に出すことで一気に好転することもよくあることです。

他人事として考えてみる

自分のことを俯瞰できるようになってきたことで、他人事して考えるようにできるようになってきたのも大きな変化です。わたしは自分に厳しいというか、自己卑下をしてしまい自分を大切にできない側面があります。他人にだったら「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」と思っても、自分に対しては「こんなことで手を抜いてはダメだ」と自分を追い込みすぎることがよくあります。また他人に対しては「あなたは悪くないよ、仕方ないよ」と思える事柄でも「全部わたしのせいだ、わたしが悪いんだ」と自責感情を高めてしまうこともしばしばです。自分と他人とでダブルスタンダード、違う基準があるのです。

そんな自分の状況を俯瞰して、他人事としてとらえてみると「わたしもそれなりに頑張ってる、むしろ頑張りすぎてるかも?」、「わたしも悪いかもしれないけど、向こうだって問題あるよな」などと思えることが増えました。俯瞰して、他人事として考えてみることで自分に対する厳しい基準を他人に対する基準に近づけられるようになり、自分を許せる部分が増えてきました。これは自分自身が抱える「生きづらさ」を減らしていく上で重要な変化だと感じています。

万引きした事実を俯瞰してみる

外に出して俯瞰してみるとこころが楽になったり、今までと違う面が見えてくるのは、万引きについてもいえます。

わたしは万引きを繰り返している間は、その事実を誰にも話しませんでした。その結果、万引きがやめられないこと・いつ捕まってもおかしくないという不安を抱え込むことがストレスになり、更に万引きに依存するという悪循環にどっぷりとハマっていました。それが入院をして、万引きを繰り返してきたことを正直に話すことでこころがグッと楽になりました

また、被害金額を店舗に返金するために、自分がした万引きについて、そのお店・おおよその金額を表にしました。万引きを繰り返していたことを正直に話すということはしましたが、全部を話せていたわけではありません。被害を与えた具体的な店舗数・金額を冷静になって客観的に見たときに、ちょっと引いてしまったというか、事の大きさを再認識しました。そして、自分が被害者側だったらどんな気持ちになるだろうかと、立場を入れ替えて考えることもできました。被害者のことを考えずに万引きを繰り返していたことが情けなくなり、自分が犯してきた罪の大きさを改めて認識することで、「もう2度と万引きを繰り返す生活には戻らない」という思いを強まりました。また表にすることで、内面にため込んでいた万引きの事実を出し切った感覚も得られ、隠していることの後ろめたさが減りました。過去のこととして区切りをつけ、これからどうしていくべきかを考えるようになりました。正直に話したところで罪が軽くなるわけではありませんが、気持ちが楽になったこと・区切りをつけられたことは、盗らない生活を送るうえで大きな要因になっています

そして、万引きしていた時の気持ちや場面を思い出し、外に出し俯瞰することで、盗らないためにどういう対策を立てるべきかを考えやすくなりました。
詳しくはこちらに書いています。

「言語化・外在化」でたくさんのものが得られる

こころや身体の現象についてことばにして紙に書き出したり、スマホに打ち出したり、ことばにして外に出すことを心理学の専門用語で「外在化」と言います。自分の「内側」で生じた現象を言語化して「外側」の媒体に「出す」ということです。ことばにして外に出そうとすることで「今の自分の気持ちはどうか?」、「辛い・苦しい?」、「うれしい・楽しい!」、そういったこころの内面に気が付くことができます。ぼんやりとした気持ちをことばで表現するには、更に自分自身と向き合う必要が出てくるので、こころの声を聞く力が高まります。そしてことばとして外に出すことでこころが軽くなったり、内面の問題を俯瞰してとらえることが出来たりと、いいことがたくさんあります。ぼんやりとした不安を具体的に言葉にして外に出し、それを俯瞰してみると実は大したことではなかったなんてこともよくあることです。

これは行動についても当てはまります。わたしは他人の目を気にしすぎるところがあり、相手の顔色を窺って嘘をついたり、ちょっとした失敗を隠したり誤魔化そうとすることがよくあります。この行動は万引きを繰り返していたときの「バレなきゃいい・隠しておこう」につながるものです。隠れて万引きを続けたことで、どんどん助けを求められない自分になってしまいました。うまくいかなかったこと、失敗したことなどを言語化・外在化し俯瞰して見てみると、冷静になって失敗の過程を分析できたり、他人からの助けやアドバイスをもらえたりと違う視点が生まれることが良くあります。そして外に出すことで気持ちが楽になり、失敗に対する後ろめたさが減るという精神的なメリットもあります。正直に外に出すことで、失敗によるマイナスを少なくできるどころかプラスに変えることもできることもあるのです。

定期的に言語化・外在化する習慣をつける

自分の内面と向き合う、外に出すのはしんどいことも多いです。気を抜くとすぐに「言語化・外在化」をサボろうとします。更には、こころのもやもやを隠したりため込んだりしていることに気が付かないこともあります。

そこでお勧めしたいのが、定期的にことばにして外に出す習慣をつけるということです。定期的にミーティングに参加し、発言をするのはとても意味があることです。テーマが与えられることも多く、自分ではなかなか向き合うことができない事柄について考え、ことばにすることで新たな一面の発見につながることもよくあります。日記に気持ちを書き出すでもいいし、家族や友人に話を聞いてもらうでもいいと思います。匿名でSNSに投稿するのもありです。わたしは自助グループへの参加や家族との会話など、内面をことばにして外に出す機会を設けることを意識しています。半強制的に自分自身と向き合う時間を作っています。「今はあまりため込んでいないな」と思いながら話し始めたら、どんどん負の感情が出てくるなんてこともよくあります。トレーニングとして「言語化・外在化」を定期的に繰り返し行うことで、以前よりは依存行為につながるようなストレスを減らせるようになってきたと感じます。

できることを継続的に

いきなり他人にこころの内面をさらけ出すことに不安があれば、まずは書き出すだけでも変化が出てくるはずです。続けることで言語化・外在化が上達し、その効果を感じることができると思います。わたしの場合、自分の感情を外に出そうとしたことで、自分の感情がよくわからないということに気づきました。そして、まだまだ外に出すことを躊躇ってしまいがちです。そして、過去の感情を掘り返すことは少しずつできるようになってきましたが、今の感情を掴む、正直に出すということはまだまだできていません。自分の内面と向き合うためにことばにして外に出す、これからも続けていきます。

「今」の感情を把握できるようになることが今後の課題

こうやって書いてみると、過去のことについては言語化・外在化をすることで、だいぶ俯瞰することができるようになったと思います。振り返って、その時の感情を思い返してため込まないようにしたり、立場を変えて考えることを意識的に行うことで少しずつできるようになってきました。でも、「こういう場面だったからこうだったのではないか?」などと頭で考えていて、その時の感情を思い出しているというよりも想像に近い感じがします。過去のことになっているから頭で考えて外に出し、俯瞰できていますが「今、実際に自分が抱いている感情」を把握できているかというとそこには至っていません。前よりも改善されてはいると思いますが、まだまだ、自分の今のこころを掴みきれない、そんな感じです。

過去からのストレスが積み重なり、それが依存行為につながってしまうというのがよくあるパターンですが、最後の一押しになるのは「今」の感情です。今の感情が行動につながるのだと思います。過去の感情を外に出すことでストレスを軽減できれば依存行為のリスクは減らせます。そして、最終的に必要なのは今の感情を把握し行動につなげることで、依存行為を回避できるようになることだと考えます。今の感情を掴めるようになるためにも、過去の感情をため込まずに外に出すことを意識していきたいと思います。

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