依存症から回復し続けることの難しさ

思うことあれこれ

スリップ(単発的な失敗)は依存症の回復によくあることです。とはいえ、クレプトマニアは被害者を生む犯罪行為であり、スリップしないのが一番なのは言うまでもありません。

ショッキングなニュース

元タレントの田代まさしさんが覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで、宮城県警に逮捕されたというニュースが報道されたのが、2019年11月のこと。約3か月前の8月に宮城県で覚せい剤を所持していた案件で11月6日に杉並区内で逮捕されたのですが、11月の逮捕の際にも覚醒剤を所持しており、現行犯逮捕されたそうです。警察にマークされているとわかっていたのに、所持していたということだと思います。薬物依存症の回復過程でのスリップ(単発的な失敗)、そして再発(生活に支障が出るレベルにやめられなくなる)。本当に「わかっちゃいるけど、やめられない」状態に戻ってしまったことが想像されます。

依存症の一つである薬物依存は、アルコール依存や処方薬依存などと同じ「物質依存」に分類されます。特定の物質を摂取することで、脳に快感状態をもたらします。その快感状態が忘れられずに、精神依存に陥ります。

以下は、内閣府のホームページからの引用です。

人は快感を得ると、脳内で神経伝達物質ドーパミンが分泌されて、中脳の脳内報酬系という部分に作用します。報酬系は刺激を受けると「また同じ快感を味わいたい」という欲求が生まれます。その欲求を満たしていくと、どんどん強い刺激を欲するようになり、やめられなくなっていきます。そして、それが一度脳に刻まれてしまうと、一生忘れられなくなってしまいます。 薬物依存の正体はこの「精神依存」なのです。そしてこの精神依存は一生治らないと考えられています。 薬物そのものが脳内物質として作用するわけではなく、薬物を摂取することで得た快感によりドーパミンが分泌されるということです。
こうなってしまうと、精神力でコントロールできる状態ではなくなってしまいます。

本人の努力だけではどうしようもできない状態に陥ってしまうのです。

クレプトマニアはプロセスへの依存

同じ依存症でもクレプトマニア(窃盗症)やギャンブル依存などは、特定の行為がやめられないもので「プロセスへの依存」と呼ばれます。このプロセスへの依存についても、特定の行為を行うことで脳内でドーパミンが分泌されると考えられています。つまり、プロセスへの依存も脳内物質に影響してしまうために、精神力でコントロールできるものではなくなってしまうのです。

薬物依存やアルコール依存などの物質依存は、摂取した物質そのものが脳に影響するようなイメージがあるせいか、脳に影響を及ぼしているイメージを持ちやすく依存症として認識されやすいように思います。 一方、クレプトマニアやギャンブル依存症などのプロセスへの依存は、脳にまで影響が及ぶイメージがしにくいせいか、依存症だという認識がされにくいようです。また、身体症状が起こりにくいため周囲が気が付きにくいという特徴があります。その結果、対応が遅れてしまうことも少なくありません

依存症は自分の意志でコントロールすることは非常に困難です。本人がいくら反省や後悔をしても、また繰り返してしまうのは脳の問題だからです。一人で抱え込んでも解決できる問題ではありません。まずは本人に、依存症だということを気づかせることが大事になってきます。

まずは依存症だと気が付くこと・認めることが必要

万引きなどの窃盗行為を繰り返してしまうクレプトマニアはまだまだ認知度が低く、依存症であることがあまり知られていません。厚生労働省の依存症対策のHPでも、「プロセスへの依存」としてギャンブル依存症が紹介されていますが、クレプトマニアについての記載はありません。その結果、依存症であるということに気づかず対策が遅れてしまうのが現状と言えます。

クレプトマニアの依存行為である窃盗は、被害者がいる犯罪です。いろんな依存症がありますが、第三者に被害を及ぼしてしまうという点で「許されない依存症」と言えると思います。他の依存症以上に、依存行為をやめることが必要です。

依存症は精神依存期間が長くなればなるほど、立ち直るのが困難になります。クレプトマニアから立ち直るためには、他の病気と同様早期対応が重要です。もっといえば、自分の意志でコントロールできるうちにやめること、つまり予防が大切です。早期に窃盗行為への依存から脱却し、被害を少しでも減らさなくてはなりません

依存症回復の難しさ

以前、田代まさしさんが出演していたNHKの番組を見ました。 依存症当事者自らが依存症について語るもので、その内容を興味深くみていました。

番組の最後に、「以前薬物使用で逮捕された時(初回)のインタビューをもう一度やり直すとしたら何を話すか?」と質問されたシーンが放送されました。その時に「今後絶対にやらないとは約束できない。でも、1日1日薬物をやらない努力を続けていくことは約束する。」ということをお話しされていました。

この言葉には依存症を持つ者としてすごく共感し、嘘を言っていないという印象を受けました。そして、ちゃんと依存症治療に向き合っていると感じました。 依存症の現実を知っていたら、「もう大丈夫、絶対一生やらない」なんて言えません。完治はない病気であり、一生向き合っていかなくてはならない病気だからです。飛ばしすぎても息切れをしてしまうだけ、長期的に回復し続ける必要があることを痛感しているんだと伝わってきたからです。

きちんと治療と向き合っていた、それでも再発してしまったわけです。

スリップ(単発的な失敗)は、依存症からの回復過程でしばしば起こる出来事とされています。スリップを一度も経験しないで回復できる人の方が少ないと言われているほどです。しかし、窃盗行為は被害者を生み出すのでスリップしないに越したことはありません。かといって、スリップを過剰に責めることは更に本人を追い込み、そのストレスから依存行為を繰り返してしまい、再発を招くという悪循環にはまってしまいます。

日本の社会でも依存症への理解が進んできてはいますが、まだまだ十分とはいえません。特にスリップにとても厳しい目が向けられているので、スリップを繰り返しながら徐々に回復していくという過程を踏みにくいというのが現状です。

薬物依存やクレプトマニアは犯罪行為なので、スリップ・再発したことにより逮捕され、治療が止まってしまうこともあります。その結果、再びスリップをしやすい状況になるという堂々巡りに陥り、刑務所と一般社会の行き来を繰り返す人も少なくありません。5年後、10年後、20年後といった、長いスパンでの回復を実現するためには、本人の取り組みももちろんですが、社会全体の依存症に対する意識の変化が求められているように思います。

クレプトマニアの認知度を高めたい

依存症は、その対策が早ければ早いほど回復しやすいと言われています。クレプトマニアの場合、対策が早ければ早いほどお店への被害もは少なくなるのです。

クレプトマニアの認知度はまだまだ低いため、依存症ということに気が付かないことも多く、対策が遅れてしまいがちです。認知度を上げることは、依存症患者本人・関係者・お店の人など多くの人に有益と言えます。

「クレプトマニアを知ってもらうことで万引きを未然に防ぎたい。」
「加害者であれ、被害者であれ、その関係者であれ、万引きで悩む人を減らしたい。」

そのために、活動していきます。そして、万引きを減らす第一歩、それは自分自身が盗らない一日を積み重ねることです。

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