入院中の取り組み①-正直に話す

わたしの実体験,わたしの歴史

入院して万引きをやめるために取り組んだこと、まずは正直に全部話すことでした。今までやってきたことを全部話そうと覚悟を決めて入院しました。

入院までは誰にも言えなかった

入院前は毎日のように万引きをしていました。警察に捕まっても、翌日からまた万引きをしてしまうような状況でした。そして、それを誰にも言えませんでした。万引きをやめなきゃいけないとは思っていました。でもやめたいとも思えていませんでした。「やめなきゃまずい」けど、「自分ではどうしようもできない」という思いから入院を決意しました。

「入院することでもう万引きはやめる」と覚悟を決めました。入院前日には、「これで盗り納め」と思って万引きをしました。

当事者のみのミーティングで

わたしが入院したA病院では1日2回(朝食・夕食後)、曜日によっては日中も当事者のみが参加するミーティングが行われました。ミーティングは言いっぱなし・聞きっぱなしで他者から意見されることはありません。またミーティングの内容は外には漏らさないことでお互いの安全性を守っています。そこではクレプトマニア当事者同士だからこそ分かり合えるような本音が語られ、話すこと・聞くことで得られることが多くあります。

このミーティングでは「KA12のステップ」という回復のステップをはじめに読み上げます。この「12のステップ」は行動問題からの回復のためのガイドライン方針です。もともと1939年にアメリカのアルコール依存症の自助グループであるAAでアルコール依存症からの回復手法として示された、とても歴史のあるものです。多くの依存症の自助グループで取り入れられています。

12ステップの始め、最初のステップは「アディクションに対して無力であると認める」ことです。そして4つ目のステップに「恐れずに、徹底して、棚おろしを行う」ということが書かれています。これは個人的な解釈ですが、「自分ではどうしようもできないと認めること」と、「棚おろしを行う=過去の過ちをすべて正直に話す」ということが依存症から回復するうえでとても大事だと思っています。

当事者同士の中では犯罪行為に依存してしまう者同士で共感する部分が多くあります。今までの過ちを正直に話すのにはとても話しやすい環境です。やはり、いくら信頼している家族や友人であってもクレプトマニア以外の人に万引きがやめられないという話をするのは、とても勇気がいることであり、ためらいがあります。そこでわたしは、最初の棚おろし(過去のことを正直に話す)の場所として当事者ミーティングを選びました。

入院したらなるべく早い段階で棚おろししようと思っていました。最初の段階で正直に話すことをためらえば、隠し続けるのが当たり前になってしまうと考えたからです。そのため、入院して4日目の夜のミーティングで、入院前まで毎日のように万引きを続けていたことを正直に仲間に話しました。当事者同士、言いやすい状況であるとはいえやはりとても緊張しました。

10分以上話していたと思います。話が終わった時には脱力感でいっぱいで、涙が止まりませんでした。そんなわたしを仲間の人たちは「よく言えたね。」と、温かくほめてくれました正直に話せたことで心が軽くなったのを感じました

棚おろしは一度で終わったわけではありません。何度も何度も自分のやってきたことを思い返すと、少しずついろんなことを思い出すんです。思い出すたびに、ミーティングで仲間たちに正直に話しました。話始めると、さらにいろんなことを思い出すということもあり、棚おろしが進んだ感じがありました。

主治医に正直に話した

仲間に正直に話した後、次の段階として選んだのは主治医に正直に話すことでした。というのも、入院の8か月前に通院を開始した時に治療を継続する条件として「万引きをしたら正直に申告する」という契約書を交わしていました。それにもかかわらず、毎日のように万引きしていることを隠しながら治療を継続していたからです。

仲間に正直に話すことで心が軽くなることを経験していたので、主治医に正直に話をすることにためらいはありませんでした。入院して約一週間が経過した頃に主治医の診察があり、その時に包み隠さず正直に今までのことを話しました。いくらためらいはなかったとはいえ、かなり緊張しました。主治医はわたしの話を聞き終わった後、「よく言えたね。」と言ってくれました

この時のことは詳しくは覚えていません。主治医はその後も言葉を続けてくれたのかもしれませんが、隠し続けたことの情けなさ、きちんと伝えられたことの満足感、話を受け止めてくれたことの安心感で心ここにあらずの状態でした。診察室を出た後も、しばらく涙が止まりませんでした。

外泊しようと思ったが…

次に正直に話をしたいと思ったのは家族(両親)です。両親には電話ではなく、直接会って話をしようと考えました。そのため、外泊で自宅に帰って直接話をしたいと思いました。

今すぐにでも両親に直接会って話をしたいという思いもありましたが、まだ時期尚早だと思いました。というのも、外泊をするとなれば一人でバスと電車を乗り継いで移動する必要があり、途中で繁華街を通らなくてはいけないからです。入院してからは盗りたい気持ちはほとんどありませんでした。しかし、それは入院して盗れない環境にいるからであって、目の前にお店があったら盗りたくなるのではという不安がありました

このときにはまだ万引きの誘惑に負けずに繁華街を通過する自信はありませんでした。

外泊しても大丈夫だと思えた

それでも毎日のミーティングで正直に話すことを心がけて日々を過ごすうちに、心が変化していました。入院中のある日、仲間と一緒に病院近くをぶらぶら歩いていると、盗りたい気持ちがなくなっている自分に気が付きました。何気なく空を眺めているときに、「盗りたい気持ちがないな」と思えたのです。今ならお店に入って商品を目の前にしても盗らないでいられると思いました。それが入院後3週間を経過した頃でした。

ほかの入院中の取り組みはこちらです。

正直に話すことの効果について書いてみました。