正直に話すことで得られたこと

2020年9月28日

正直に話せるようになり気持ちが楽になりました。そして、再発への不安が減ったというのも大きな成果です。

とにかく、気持ちが楽になった

正直に話したことによる変化で一番強く感じるのは、気持ちが楽になったということです。それまでは万引きしていることを隠すために、ウソにウソを塗り固めていました。滔々とウソをつくことに苦しさや情けなさを感じていました万引きをしていることを隠して、盗り続けようとしている自分に疲弊していました。いつまでこの状態を続けるつもりなんだろうと、自分自身にお手上げの状態でした。そして、いつもウソがばれてしまうことにビクビクしていました。万引きをして捕まる夢を見るような状態でした。とにかく、心が穏やかではなかったです。

自分ではどうしようもできないと認めて、今までのことを正直に話せたことでとても気持ちが楽になりました。1人で問題を抱え込む必要はないということがわかり、安心感を得ることができたと思います。

過去のことをすべて出すつもりで話をした

入院して、正直に話そうと決めたとき、「すべてを正直に出す」つもりでいました。その時は、心をコップの水に例えた話をイメージしていました。コップに泥水が入っていて、その泥水が過去の過ちです。わたしの場合の泥水は万引きやそれに関連することです。泥水が入ったコップにいくらきれいな水を注いでも、泥水が薄まるだけです。かき混ぜればきれいな水に見えますが、しばらくするとまた底に泥がたまります。

ではどうすればきれいな水がたまるのか?それはコップに入った泥水をすべて捨ててからきれいな水を注げばいいのです。万引きを手放すためにも、きれいな心でいる努力をしなくてはいけないと思いました。そのためには一度泥水をすべて捨てなくてはいけません。過去の過ちを正直に話すことが、ここでいう泥水を捨てることなんだと考えました。

泥水をすべて捨てきることが大切と考えたので、徹底的に棚おろしをしました。棚おろしとは過去の過ちを振り返って、正直にそれを誰かに話したり、書き出したりして外に出す作業のことです。棚おろしを続けていると、忘れていた記憶がよみがえることもよくあります。思い出したら、それを正直に話すということを繰り返し、とにかく徹底的に棚おろしをしました。

棚おろしを繰り返すことで得られた内発的動機づけ

万引きしてきた過去を何度も何度も思い返し、外に出すことを続けました

入院中には「プライベートメッセージ」を何度も行いました。プライベートメッセージとは、回復途上の人が新しく入院してきた方や通院治療を開始して日の浅い方に対して、個別に自分の体験を語るというものです。お話しする相手は患者本人の場合もありますし、ご家族や関係者の場合もあります。自分のクレプトマニアに至った経緯や盗っていた頃のことを思い出しながら、その時の様子を相手に伝えるのです。これも棚おろしの一つになっていました。

それ以外にも、盗っていた頃のことを書き出してみたり、読み返したり、返金をするために万引きしてしまったお店のリストを作ったりと、とにかく盗っていた頃のことを何度も何度も思い出し、正直に外に出しました。

そうやって何度も何度も盗っていた頃のことを思い出すと、盗っていた頃の自分が情けなく感じるようになりました。お店に対して申し訳ないことをしたという感情も持つようになりました。そして、二度と盗っていた頃の情けない自分に戻りたくないという思いが強くなりました。このような自分の内側から湧いてくる感情はに基づく動機づけは「内発的動機づけ」といいますが、この内発的動機づけを得られたというのも正直に話せた効果として、とても大きいと感じています。

再犯しても正直に話せば何とかなると思えた

正直に話せたことで得られた大きなことの一つに、再発に対する不安の減少があります。

依存症の回復過程にスリップ(単発的な失敗)はつきものです。依存症はスリップを繰り返しながら回復していくと言われています。単発的には失敗をしてしまっても、それを反省し、そこから対処法を学ぶことが回復につながります。窃盗は犯罪行為であり、スリップしないことが一番ですが思うようにはいかないことも想定する必要があります。

スリップに対する不安はいつでもあります。でも、正直になれば楽になれると実感できたことで、スリップしてしまってもそれをすぐに正直に誰かに話すことができれば、軌道修正できると思えるようになりました。すぐに誰かに話ができれば、毎日のように万引きしてしまう生活に戻ったり、捕まるまでやめられないという状態(=再発)にはならずに済むと思えたのです。スリップした一回目で捕まったら、それは「万引きのやり方が下手」ということで自業自得。もし成功したとしても、正直に周囲の人に話してお店に謝罪・弁償し、痛い目に合うことで再発には至らずに済むはずと考えられるようになりました。

「抑えきれない衝動で万引きしてしまったとしても、正直になることについては自分でコントロールできるはず。」、「無意識に近い状態で万引きしてしまっても、ウソをつくかどうかは意識できるはず」、そう感じています。正直に話す自分でいられれば、回復に向けての歩みを続けることができると思えたのです。スリップしてしまっても、正直にそれを打ち明けられれば再発までには至らずに済むはずです。

仲間の話を聞いて正直に話すことの大切さを痛感

ある日の当事者のみのミーティングでとても印象に残った話を聞けたので、ミーティング後にその仲間に声を掛けました。その方はもうすぐ執行猶予が明けるというクレプトマニアの方。執行猶予中も盗りたい衝動を抑えることができず、スリップしてしまったことがあるそうです。それでもスリップする度にすぐにKAの仲間や主治医に話し、お店に弁償をすることで、再び盗らない生活に軌道修正できたとのことでした。

その話を聞いて、もしスリップしてしまっても正直に話せればなんとかなると思えました。スリップに対して、必要以上に怯えることはないと気持ちが楽になりました。正直でいられればもう入院前のような、万引きに頭が支配されている生活には戻らなくて済むと思えたのです。

盗らない期間が長いほど、スリップを正直に話すことが難しい

先行く仲間がスリップから再発し、事件を起こしてしまったという話を聞くと、スリップしたことを正直に話すことの難しさを痛感します。「家族が気づいて入院した」、「自分から助けを求めた」という話も聞きますがそれはごく少数。スリップを打ち明けることができず、再発し、捕まるまで盗り続けてしまうことが本当に多いです。

盗らない期間が長くなればなるほど、周囲は「もう大丈夫だろう」と考えがちです。そうなると、スリップした時にそのことを正直に話すことが難しくなります。しかし、依存症に完治はなく、いつスリップするかわかりません。どんなに時間が経っても、スリップの危険が付きまとうのが依存症の怖さです。

依存症は周囲の目を気にする人がなりやすい病気、わたし自身もそんな一人です。「周囲の期待を裏切ってはいけない」という考えが、正直さを失わせることがあります。また、依存症とはいっても犯罪行為を正直に申告するというのはやはりしんどいです。いくら正直になることのメリットや大切さを実感していても、正直になれない場面があるのかなと。

スリップをしてしまうこと以上に、正直さを失うことが危ない状態であるということを肝に銘じて、日々を過ごさなければと思っています。

正直に話したときのエピソードはこちらです。