家計簿はつける?つけない?金銭感覚について

盗らないための工夫

万引きをするのが当たり前の生活をしていると、金銭管理がおろそかになり金銭感覚もマヒしてしまいます。ちゃんと買う生活に向けて、正しい金銭感覚を身に着けるために家計簿をつけるという方法があります。

入院時のルール

わたしが入院した病院では家計簿(現金出納帳)をつけることがルールになっていました。

基本的にクレジットカードや電子マネーの使用は禁止で使っていいのは現金のみ。病院外のお店や院内の売店で買い物をした場合は、その商品を病棟に持ち込む際にナースステーションで看護師によるチェックを受けます。
持っている商品とレシートを照合し、きちんと購入しているかを確認します。さらに、抜き打ちで看護師によるチェックが入り、家計簿に記載されている額と手持ち金にずれがないかを確認します。1円でも合わなければ、合わない額を没収されます。金銭管理について、看護師が監督してくれるのです。

クレプトマニアが家計簿をつける意味

入院時に家計簿をつける理由は主に2つ。

一つは防犯目的、現金の院内窃盗が起こらないようにするためです。クレプトマニアは依存症、入院したからと言って急に窃盗欲求が収まるわけではありません。お店がないから万引きしなくても、窃盗欲求が院内の物品に向いてしまうことがあるのです。わたしも入院中に現金ではありませんが、窃盗の被害者になるという経験をしました。入院中は現金だけでなく、所持品についてはすべてリスト化し、定期的に看護師による荷物検査を受けます。

もう一つの目的は、患者に正しい金銭感覚をつけさせることです。当たり前のように万引きをしていることで何がどのくらいの金額で買えるのか、感覚がマヒしてしまっている人がいるからです。買ったものとその金額を照らし合わせることで金銭感覚を身に着け、さらに手持ちの金額内のものしか得られないということを学習していきます。また手に入れたものに見合った金額を払う、その分お金が減るのは仕方ないというごくごく当たり前の感覚を身に着けていきます。

クレプトマニアは「盗る病気」ですが、「買えない病気」でもあると感じます。お金が減ることが極端に怖い「枯渇恐怖」が強く、買うことが怖くそれを回避するために盗ってしまう、そんな感じです。この枯渇恐怖は先行き不安による影響が大きいと思います。怖い怖いと思っていても、じゃあ実際に足りないのか?というと、把握できていないということも多いです。人によっては家計簿をつけきちんと金銭管理をし、具体的な金銭の動きがわかることで、漠然としたお金に対する先行き不安が減ることで枯渇恐怖が減り、お金を使うことはビビるほどのことではないと感じられる場合もあると思います。また、何を買ったかを再確認することで手元にあるものを把握しやすくなります。その結果、モノに対する枯渇恐怖が減るという効果が期待できます。

盗らない生活を送れるようになると、逆に買い物依存になってしまう人もいます。ちゃんと買えるようにはなったものの、何かしら物質的なものでこころの「満たされない感覚」埋めたいという思いが消えていないため、モノでこころを満たそうとしてしまっているのだと思います。盗らないようにするためにネットショッピングを利用する人も多いのですが、ネットショッピングだと購入のハードルが低く、一気に買い物依存になってしまうという話も聞きます。

いずれの場合でも、「適切な金銭感覚を身に着け、きちんと買い物をして予算内でやりくりする」ということを学習する必要があります。

お金が足りないのなら助けを求める

家計簿をつけ金銭管理をすることで、金銭的に厳しいということがはっきりする場合もあると思います。そのようなときは窃盗に逃げるのではなく、周囲に助けを求めることが必要です。行政の窓口を頼ることも一つの方法です。また、先行き不安から少しでも多くのお金を蓄えておきたいという思いに駆られがちですが、各種手当や奨学金など、いろいろなサービスがあると知ることで先行き不安や枯渇恐怖が減ることも考えられます。仮にお金が無くなってしまっても、助けを求めれば助けてもらえるはずです。それを事前に知っておくだけでも違います。一人で抱え込まないようにしましょう。

家計簿をつけるデメリット

入院中は家計簿をつけることがルールになっていますが、家計簿をつけることがマイナスに作用してしまう場合もあります。

家計簿をつけると出費が明確になるので、お金が減っている感覚が強まることがあります。枯渇恐怖が強く、お金が減ることに強い恐怖を感じる人にとっては恐怖心をあおることになり、結果的に窃盗欲求を強めてしまう可能性が考えられます。また、家計簿をつける時には予算を立てることがありますが、これも窃盗欲求を強めてしまう可能性があります。クレプトマニアには自分で決めたルールを良くも悪くも厳格に守ろうとしがちな人が多くいます。予算内に収めるというルールを決めると、予算を越さないようにするため、盗ってしまおうという気持ちが強くなることも考えられます。

メリット・デメリットを考慮したうえで、家計簿をつけるかを決めるとよいと思います。そして、継続するかどうかなどもその状況に応じて柔軟にやっていきましょう。

わたしの場合は家計簿をつける目的が変わった

わたしは小学生の頃から家計簿(お小遣い帳)をつけていました。小さいころ、お小遣いをもらうようになった時の親との約束がお小遣い帳をつけることでした。そのこともあって、ずっとつけています。母もずっと家計簿をつけていて、それを見て育ってきたことも影響していると思います。

毎日万引きしていた頃はほとんどお金を使わなかったので、家計簿はさぼっていたも同然かもしれませんが、出費が少ないなりにつけることはつけていました。

入院治療を経て盗りたい気持ちが起こらなくなった退院後、家計簿をつけるかどうか迷いました。わたしは予算などのルールを決めると、かなりきっちり守りたくなる性格です。そのため、予算を越えそうになったときにお金を使いたくないという思いから、窃盗欲求が強くなる可能性があると思ったからです。万引きをするようになる前から、いかに食費を節約するかに囚われていてスーパーをはしごするような生活をしていました。食費の予算を守ること、さらには出費を減らすことに異常なほど執着し、それがクレプトマニアにつながったという経緯があるため、出費が明確になることに不安があったのです。しかも基本的にケチなので金銭感覚もそれなりにあり、家計簿をつけないからと言って湯水のようにお金を使ってしまうということは考えにくい状況でした。同じような考えから、退院後は家計簿をつけていないが特に問題なくやっているという仲間の話も頭にありました。

いろいろと迷いましたが、結果的に退院後も家計簿をつけています。パソコンで付けているので、合計金額は自動計算で自分で計算する必要はありません。月の合計など、大きな金額を見るとお金を使うことへの罪悪感や枯渇恐怖が強まる可能性があるので、あまり見ないようにしています。また予算設定をすると、オーバーしたときに赤字で表示される機能があるのですが、それによって盗りたい気持ちがあおられないように高めの予算設定にして赤字にならないようにしています。

家計簿をつけることの目的が「(金銭管理をして予算という)ルールを守る」ことから、「ルールがあってもあまり気にしない」ための練習にシフトした感じです。今は「自分ルールを緩める練習」と思うくらいの楽な気持ちで家計簿をつけています。

予算の捉え方を変える

わたしの場合、予算は「超えてはいけない、出費が許される上限金額」というイメージでした。その結果、なるべく出費を少なくし、より多くの金額を残しておきたいと考えがちでした。しかも残った予算を繰り越すかと言えばそれもなく、どんどんため込みたくなってしまいます。この「なるべくお金を使わない方がいい」という発想は盗りたい気持ちにつながりがちなので、気を付けないといけないところです。そこで予算の捉え方として「ここまでは使ってよい金額」というように考えることを意識しています。例えば月末に予算が余りそうになったとき、「使っていいのが予算、むしろ使い切っていい。だからちょっと贅沢しちゃおう」などと考えられるとよいなと。クレプトマニアにとって、お金を使えるようになるというのは大きな課題だと思います。予算の捉え方を変えることも、お金を使えるようになるためのひとつの方法なのではないかと思います。

お金を使えるようになることについてはこちらに書いています。

ちょっとした工夫で、お金を使いやすくする

わたしの場合、自分にお金を使うことが苦手ですが、特に食費に対してケチというか、使うことへの罪悪感が強くなりがちです。食費をいかに少なくするか、そう考えてしまうのです。逆に「これは食費ではない」と思うことでお金を使いやすくなったりします。例えば友人との会食は「交際費」、自分にご褒美的な食べ物を買う時は「教養・娯楽費」など、食費とは考えないようにすることで、お金を使うことの抵抗感・罪悪感が減ります。

予算設定の期間についても、家計簿アプリなどでは1か月に設定してあることが多いですが、遠くの目標すぎると先の見通しが立たてにくく、先行き不安が大きくなることもあるかもしれません。1週間ごとなどこまめに設定する方が上手くいくということもあると思います。自分に合った方法を探してみてください。

金銭管理方法を再考する

万引きを繰り返していれば、「お金が減らずにものが手に入る」という不自然な状況が当たり前のようになってしまいます。これは明らかに異常です。窃盗は被害者のいる犯罪行為であり、あってはならないことだと認識する必要があります。

また、買うとしたら躊躇うような高価なものを盗っていたのも事実です。身の丈に合った生活、それを自覚する必要があります。今までの金銭管理の方法を見つめなおし、盗らない生活を送るために自分に合った方法を模索してみるとよいのではないでしょうか?

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