回復にはやっぱり覚悟が必要

2020年10月22日

依存症からの回復は長期戦になります。簡単ではありませんが、辛いことばかりではないはずです。

やめられなかった頃は覚悟が足りなかった

覚悟とは「困難なことを予想して、それを受けとめる心構えをすること」です。依存症からの回復への覚悟は、依存症と戦うというよりも受け入れる・受け止めるというイメージだと思います。

わたしは2回目に捕まった後に通院・自助グループの参加を開始しましたが、万引きがやめられませんでした。そして3回目の捕まった時に「もう通院だけでは無理、入院しよう。これが最終手段。何としてでもやめる」と入院を決めました。それでも万引きをやめたくなくて、いろんな理由をつけて入院を先延ばししました。そして、退院後は盗らない生活を続けることができています。

通院と入院、治療内容にも違いがあり、入院の方が集中的に取り組めるので効果は出やすいと思います。でも今思えば、治療法の違い以前に、万引きをやめる覚悟が足りなかったです。目先の利益に囚われてしまい、目の前の万引きを我慢することができませんでした。

依存症は脳の病気であり覚悟だけで何とかなるものではないですが、覚悟なしで回復し続けることはあり得ないと感じています。

具体的には次の3つの覚悟が必要だと思います。

・万引きを手放す覚悟
・過去を正直に話す覚悟
・回復への努力を継続する覚悟

万引きを手放す覚悟

まずは「万引きを手放す覚悟」、盗らない生活の最初の一歩を踏み出す覚悟です。
万引きに依存しているので、手放すのは相当に怖く勇気が必要になります。多くの場合、「万引きはやめないとまずいとは思っているが、やめたいとは思えていない」、「盗りたい気持ちが消えないことに悩んでいる」状態なのだと思います。このような状況でやめなくてはいけないのですから、相当な覚悟が必要になります。

わたし自身も、盗っていた頃はやめたいと思えませんでした。万引きのない生活は考えられず、やめなきゃまずいと思いつつもどうやって万引きをする生活を続けられるかを考えていました。本音を言えば、入院したくなかったですし、実際に入院が決まってからもいろいろと理由をつけて先延ばししました。

なぜ万引きをやめたくなかったかと言ったら、万引きによって得ているものがあったからです。目の前の利益にしか目を向けられず、金銭的にも精神的にも得をしていると思っていました。でも、それは大きな勘違いだということが、万引きを手放してわかりました。

詳しくはこちらに書いています。

最初の一歩を踏み出すのは大きな勇気が必要ですが、一歩目がなければその先はありません。覚悟を決めて、最初の一歩を踏み出すことは本当に大変です。自力で踏み出せたら、本当にすごいこと、自分で自分をほめてあげましょう!「警察に捕まって、結果的に万引きが止まった」、それでもいいんです。大いに活用しましょう!

過去を正直に話す覚悟

クレプトマニアの大きな問題として「バレなきゃいい」という発想に陥りがちということがあります。「見つからなければいい」、「バレなきゃ大丈夫」、「このくらいいいだろう」、そういう歪んだ認知を修正する必要があります

『万引きがやめられない クレプトマニア(窃盗症)の理解と治療』には、治療の取り組みとして次のようなことが書かれています。

・万引きのことをすべて打ち明けることが回復の第一歩であり、絶対条件。

・これまで自分がやってきた盗みについて、100%告白することにまず取り組んでもらう。

・言いにくいことを隠したり、誤魔化せば、嘘・ごまかしを持ち続けるようになりそれでは行動は変わらない。嘘・ごまかしのない自分になるための努力が必要。

『万引きがやめられない クレプトマニア(窃盗症)の理解と治療』

これ、頭ではわかります。本当にそう、その通りです。ド正論すぎて、ぐうの音も出ない理論ですが簡単にできることではありません。だからこそ、この壁を乗り越える覚悟が必要になります。

正直に話すことが困難であることの理由に「万引きしてはいけない」という小学生でも守れるルールが守れないという恥ずかしさ・情けなさがあります。バレていない万引きは墓場まで持っていきたいという思いも、そう簡単には消えないはずです。でも簡単に越えられる壁ではないからこそ、越えたときに得られるものは本当に大きいものがある、そう感じています。

過去の膿を出す作業は本当に苦しいです。わたしは万引きをやめられなかったことを初めて正直に話したのは、入院中の当事者のみのミーティングでしたが、あの緊張感は忘れられません。終わった後は崩れ落ちるように泣き、仲間に支えてもらいました。そして、正直に話せた後の心が楽になった感覚は「こんなにも違うのか!」と驚きでした

また、自分の万引きによる被害額を表に書き出しましたが、その量に情けなくなりました。過去と向き合うことは本当に苦しく、もう2度とやりたくない作業です。でも、その苦しさが「もう盗る生活に戻りたくない」という覚悟を強めることにつながっています

万引きを手放すという最初の一歩を踏み出すのもそれなりに大変ですが、捕まることで偶発的に起こったり、強制的に入院させたりして、そこまで覚悟を決めなくてもできてしまうこともあります。ですが、この「過去のことを正直に話す」というのはどんなに周囲が働きかけても、本人が覚悟を決めて行動に移さないどうしようもありませんどれだけのことを隠しているのか、それは本人にしかわからないからです。

そして、過去のこと・そしてこれからのことも「正直に話すこと」できるかどうか、「バレなきゃいい」という考えを捨てられるかどうかが、回復し続けられるかに大きく影響するのだと思います。もっと言えば、手放す覚悟ができてもその効果は一時的で、それだけでは再発のリスクが高い状態が続いてしまうのではないでしょうか。盗らない生活を続けるには、過去のことも含め「すべてを正直に話す覚悟」は不可欠と言えそうです。

回復への努力を継続する覚悟

この覚悟には、依存症であることを受け入れることが重要です。依存症に完治はなく、一生回復への努力を続ける必要があり、長期戦になります。その事実を受け入れ、長期戦を戦い抜くことの覚悟が必要です。

盗らない生活を続ける覚悟というのは、「盗りたい気持ちをガマンし続ける」ということではありません。依存症も病気、他の病気を例に考えてみます。糖尿病、一度症状が強くなると薬を飲んだり、食事制限をしたり、運動をしたりして血糖値をコントロールする必要があります。血糖値が落ち着けば薬の量を減らしたり、食事制限を緩くしたりしますが、暴飲暴食はせず、適度に運動をするなど、症状が悪くならないように配慮した生活が必要になります。また、定期的に検査を受けるなどして血糖値の変化に気を配る必要があり、何も対策をしなくて良いという状態に戻ることは難しいです。

依存症も、そんな感じなのではないかと思います。回復に向けて治療や自助グループへの参加を最優先にすることが必要な時期、ある程度落ち着いてミーティング参加頻度を下げるなどサポートを受けながら社会復帰を進めていく時期、社会復帰を果たす時期、そのような段階があると思いますが、やはり完治はなく回復への努力を継続する必要があります

依存症状に影響を及ぼすこころの変化は分かりにくいです。そのためこころの変化に気を配り続けることはとても大切だと思います。依存行為のメカニズムを知り、こころの内圧をうまくコントロールする方法を身に着けられれば、行為衝動は軽減できるのだと感じています。こころの内圧をうまくコントロールする方法を身に着けることは、回復し続けるために重要な役割を果たすと言えるのではないでしょうか。

また、盗らない生活を維持するには、失敗を受け入れる覚悟・正直であり続ける覚悟が重要だと感じています。クレプトマニアにはいつでも「バレなきゃいい」という発想がつきまとってしまうからです。窃盗行為以外のことも含め、「失敗を隠さない」・「正直に話す」ということを意識的に行っていく必要があると思います。

うまくいかなくても諦めないということも必要な覚悟です。依存症である以上、スリップ(単発の失敗)のリスクはあります。スリップ(単発の失敗)をしないに越したことはありませんが、やってしまったからといって回復を諦めることはもっとダメです。「バレなきゃいい」モードに入ってしまい、正直に話せなかったら、スリップに留めることができず、再発(万引きがやめられず生活に支障が出る状態)まっしぐらになってしまいます

長期戦を戦い抜く覚悟とは「スリップしてしまっても、正直に話し、単発で終わらせる」、「慌てず・焦らず・諦めずに盗らない一日を積み重ねる」、「依存症であることを忘れずこころの声に耳を傾け続ける」、そういった覚悟だと思います。

すぐに結果が出るとは限りません。慌てず・焦らず・諦めず、じっくりと進んでいく必要があります。

1人での回復は困難

こうやって書き出してみると、長期戦を戦い抜くのに必要な覚悟は「1人で戦わない覚悟」・「自分の弱さを受け入れ、辛い時に助けを求める覚悟」ともいえるのではないかと思います。回復し続けるためには誰かに助けを求めやすい環境を作ること、そして助けを求められる自分になることが大切です。

また、長い戦いは先が見えず不安になります。そういう時に、先行く仲間(回復し続けている人)の存在はこころの支えになります。自助グループやSNSなどで仲間とつながることは、回復し続けることに大きな役割を果たすと思います。

覚悟を決めて万引きをやめたら、むしろ楽になった

盗らない生活になって分かったことは、「盗らない方が楽」ということです。万引きを手放すことが怖く、入院を先延ばしにしてまでも万引きする生活を続けたいと思っていましたが、今では「もっと早く入院していればよかった」と思うくらいです。「覚悟を決める」というと辛いことに耐え忍ぶというようなイメージになりがちですが、逆です。覚悟を決めて盗らない生活を送れるようになった今は、盗ってた頃に比べて本当に楽です。

わたしの場合、万引きを手放す覚悟=入院する覚悟という感じでしたが、入院する覚悟ができたのは仲間の話を聞いたことが大きく影響しています。参加していたKA(クレプトマニアの自助グループ)で、「過去の万引きやこころの中のもやもやなどを正直に話し、澱のように溜まった汚れを全部吐き出したら、とてもすっきりした」、「こころの内のドロドロしたものがなくなったら、盗りたい気持ちが起こらなくなった」、「盗らない生活は本当にこころが穏やかで気持ちがいい」、そういう話を聞き、わたしも続きたいと強く思いました。

そして、正直であり続ける覚悟・スリップしたらすぐに正直に話す覚悟を決めたら、「万引きに洗脳されてしまうレベルにまでは至らずに済むだろう」と思えるようになり、気が楽になりました

だから、わたしも伝えます。
万引きを手放して、正直にこころのもやもやを外に出すことで、わたしは盗らない生活を送れるようになりました。そして、正直であり続ける覚悟を決めたことが、次の盗らない一日につながると信じています。まだまだ正直になることが下手で課題はたくさんありますが、少しずつ前に進めている気がします。そして、今の盗らない生活は、万引きをしていた頃よりもずっとこころが穏やかです。1人でも多くのクレプトマニアにこのことを伝え、回復に向けて一緒に頑張っていけたらと思っています。

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