最後の万引きから1年が経過して

わたしの歴史

最後の万引きから一年が経過しました。この一年で経験したこと・感じたことを記録しておきたいと思います(2020年4月21日)。

3か月の入院治療を経て万引きを手放せた

わたしは約1年10か月、通院治療と自助グループへの参加を続けましたが、毎日のように万引きをする生活から抜け出せませんでした。そこで入院治療を受けることを決意し、「入院で絶対に万引きをやめる!」と自分で決めました。そして、入院前日を「盗り納めの日」として、カウントダウンをするように毎日万引きをしていました。その盗り納めの日が一年前の今日、それが最後の万引きです。

盗り納めの翌日から3か月の入院治療を受けました。本当に、本当に濃い3か月間でした。万引きをしたいという気持ちは起こらなくなり、退院後も強い衝動に襲われることなく生活できています。

最後の万引きの日から、丸一年が経ちました。その期間には入院というドーピングもありますが、盗らない一日を積み重ねて1年までたどり着きました。

自分のことを俯瞰できるようになった

この一年での大きな変化の一つが、自分のことを俯瞰できるようになったことです。

入院前は、毎日のように万引きをしていることを誰にも言わず、隠していました。万引きの事実を隠すために、会話中にも嘘をついたり話を逸らしたりと、とにかくボロが出ないように自分自身のことをオープンにはしませんでした。それが、入院をきっかけに今までの万引きしていたことを正直に話すことができ、正直になることはとても楽だとわかりました。そして、心のもやもやは中にため込まずに外に出したほうが楽だということに気が付きました。

自分の心のうちを口に出したり、文章にすることを繰り返すことで、外に出した思い・感情を一歩離れて見ることができるようになったと思います。

嫌な部分も含め、自分を受け入れられるようになった

一歩離れたところから自分を見られるようになったことで、自分自身を客観視し落ち着いて対応できるようになったと思います。

わたしは自分自身に対し厳しいというか、こうありたいという自分像にこだわっていた部分がありました。そしてそれに執着するあまり、強い負荷を自分自身にかけてしまっていました。他人のことであれば許せても、自分のこととなると許せないというダブルスタンダードがあり、できない自分・弱い自分を受け入れることができませんでした

それが、一歩離れて自分を見ることで、ある意味他人事のように自分自身をとらえることができるようになり、弱い自分・ダメな自分も許せるようになってきました

これには正直に話せるようになったことが大きく影響しています。正直に自分のことを外に出していくうちに、弱い自分・ダメな自分がどんどん出てきました。ダメダメな自分がどんどん出てくるので、そんな自分を受け入れざるを得ないというか、ダメな部分も含めて自分だと認めざるを得ない感覚になりました。その結果、自分が依存症であるということを認め、さらに依存症になった自分を受け入れられるようになりました

人の意見に耳を傾けられるようになった

わたしはとても頑固です。こだわりが強く、人から意見されても納得しないとなかなか取り入れようとしません。マイルールが崩せないこと、それは今でも大きな課題です。それでも以前よりは随分と改善しました。人の意見に耳を傾け、それを取り入れることが少しはできるようになりました。

それは、自分の心の内を外に出すことができるようになったことが大きく影響していると思います。心の内を外に出すことで、心の容量に余裕・すき間ができました。他の人の意見を取り入れるスペースが空いた感じです。いいなと思うことは、そのスペースに入れてみて、うまくいかなかったらまた手放せばいい、そのくらいに思えるようになりました。

また、以前は自分自身を乱されるのではないかと、他の意見や情報を取り入れることに不安がありました。世の中にあふれている情報に振り回されてしまうことが怖く、頑なに自分を守ろうとしていたと思います。そんなとき、元TBSアナウンサー・令和メディア研究所主宰の下村健一さんのメディア・リテラシー講座に参加しました。外部からの情報の見極め方や受け取り方を学ぶことで、不確かな情報に振り回される不安が減りました。この経験も、人の意見に耳を傾けられるようになるうえで、大きな要因になっています。

twitter・ホームページをはじめ、より多くの仲間とつながった

2019年11月より、「クレプトマニア当事者・高橋 悠」として情報発信を始めました。同時期にtwitterを始め、12月にはホームページも開設しました。

ホームページへ投稿することは、自分の思いを外に出したり、考え方を整理する上でとても役立っています。クレプトマニアについて一人でも多くの人に知ってもらい、クレプトマニアによる万引きを減らすことを目指していますが、少なくともわたし自身の万引きを抑制することに大きく貢献していると感じています。

また、ホームページを通じて連絡してきてくださった方とメールのやり取りをすることで、自分自身気づかされることがたくさんあります。一人では得られない多くの気づきを与えていただいています。

また、本当に始めてよかったなと思っているのはtwitterです。twitterを通じて、多くの違うアディクションの仲間たちとつながることができました。クレプトマニアは多くはありませんが、依存症として大きくとらえると回復に向けて一緒に頑張る仲間が大勢います。twitterでつながった仲間たちと回復に向けて一緒に頑張ることは、わたしの負けず嫌い魂を奮い立たせてくれています。

1人では絶対に万引きを手放すことはできなかった

この一年間、多くの人に支えられてきたことを強く感じます。

一緒に暮らす両親は、毎週末には1時間以上にわたり、3人で顔を突き合わせ話を聞いてくれました。娘の今までの悪行のカミングアウトに驚きながらも、その事実を受け止めてくれました。離れて暮らす姉は、時には厳しい言葉で叱咤激励してくれました。姉の「これ以上、両親を悲しませるんじゃない!」という叱責は、今も心に響いています。

主治医、入院中・自助グループ・twitterつながりの仲間、友人など、本当に多くの人に支えてもらいました。今、盗らない生活を送ることができているのは、自分を支えてくださる多くの人たちのおかげです。絶対に、一人では万引きを手放すことはできませんでした

いつも支えてくださって、本当にありがとうございます。そしてこれからも、よろしくお願いします。

一日一日を大切に

万引きを手放して1年を迎えた今、世の中は新型コロナウイルスの影響で大騒ぎです。感染拡大防止のため外出自粛要請が出されるなど、人と会うことが難しい状態になっていますが、そのことが逆に、人のつながりの大切さを再認識させてくれているように思います。また、偶然にも丸一年を迎えるタイミングで、コロナウイルスの影響で1週間ほど仕事が休みになりました。これは「ちゃんとこの1年間を振り返って、次のステップにつなげるように!」という、ハイヤーパワーがはたらいているのかもと思ってしまいます。

この一年あっという間だったような気もしますし、万引きしていた頃・入院していた頃が随分と前のことのような気もします。「今日一日盗らずに過ごす」ということを繰り返し、それを366回繰り返した結果、1年になったという感覚です。

万引きは手放すことはできましたが、過食嘔吐は相変わらずだし、課題はまだまだたくさんあります。上を見ればきりがありませんが、「万引きをせずにちゃんと買う」ということがなんとかできるようになりました。普通の人からすればごくごく当たり前のことですが、わたしから見れば大きな進歩です。ちょっと情けない思いはありますが、自分自身を褒めてあげたいです。

慌てず、焦らず、諦めず、今後も多くの人の力を借りながら前向きに進んでいきたいと思います。

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