手放すにはやっぱり覚悟が必要
依存症から回復する取り組みは長期戦になります。簡単ではありませんが、辛いことばかりではないはずです。
やめられなかった頃は覚悟が足りなかった
覚悟とは「困難なことを予想して、それを受けとめる心構えをすること」です。依存症からの回復への覚悟は、依存症と戦うというよりも受け入れる・受け止めるというイメージだと思います。
わたしは2回目に捕まった後に通院・自助グループの参加を開始しましたが、万引きがやめられませんでした。そして3回目の捕まった時に「もう通院だけでは無理、入院しよう。盗れる環境にいたら我慢できない。盗れない環境で自分の問題と向き合おう。これが最終手段。何としてでもやめる。」と入院を決めました。それでも万引きをやめたくなくて、いろんな理由をつけて入院を先延ばししました。そして、退院後は盗らない生活を続けることができています。
通院と入院、治療内容にも違いがあり、入院の方が集中的に取り組めるので効果は出やすいと思います。でも今思えば、治療法の違い以前に、万引きをやめる覚悟が足りなかったです。目先の利益に囚われてしまい、目の前の万引きを我慢することができませんでした。多くの場合成功してしまうので、いつか捕まるという不安を抱えながらもやめることを先延ばしにし続けていました。
依存症は脳の病気であり覚悟だけで何とかなるものではないですが、覚悟なしで回復し続けることはあり得ないと感じています。また、病気なのでなってしまうのは仕方ないですが、病気の影響で罪を犯しているとわかった以上は治療に取り組む責任(回復責任)が生じているとも思います。
具体的には次の3つの覚悟が必要だと思います。
・万引きを手放す覚悟
・過去を正直に話す覚悟
・回復への努力を継続する覚悟
万引きを手放す覚悟
まずは「万引きを手放す覚悟」、盗らない生活の最初の一歩を踏み出す覚悟です。
万引きに依存しているので、手放すのは相当に怖く勇気が必要になります。多くの場合、「万引きはやめないとまずいとは思っているが、やめたいとは思えていない」、「盗りたい気持ちが消えないことに悩んでいる」状態なのだと思います。そして万引きの厄介なところは、成功率が高いということです。何度も成功体験を繰り返しているので、「この状況なら盗れるのに」、「買わずに盗れば、お金が減らなくて済むのに」という考えが頭をよぎることもあるでしょう。このような状況でやめなくてはいけないのですから、相当な覚悟が必要になります。
とにかく、今日一日、ガマンする。万引きしないための行動をとる。その一歩を踏み出す覚悟が必要です。
わたし自身も、盗っていた頃はやめたいと思えませんでした。万引きのない生活は考えられず、やめなきゃまずいと思いつつもどうやって万引きをする生活を続けられるかを考えていました。本音を言えば、入院したくなかったですし、実際に入院が決まってからもいろいろと理由をつけて先延ばししました。なぜ万引きをやめたくなかったかと言ったら、万引きによって得ているものがあったからです。目の前の利益にしか目を向けられず、金銭的にも精神的にも得をしていると思っていました。でも、それは大きな勘違いだということが、万引きを手放してわかりました。
詳しくはこちらに書いています。
最初の一歩を踏み出すのは大きな勇気が必要ですが、一歩目がなければその先はありません。頭でわかっていても行動しなくては何も変わりません。「やめたい」くらいの気持ちではやめられないのではないかとも感じます。どこか他力本願なところがあるように思えるのです。「やめる!もう、盗るという選択肢はない!」それくらいの覚悟が必要なのだと思います。
覚悟を決めて、最初の一歩を踏み出すことは本当に大変です。その一歩を自力で踏み出せたら、本当にすごいこと、自分で自分をほめてあげましょう!「警察に捕まって、結果的に万引きが止まった」、それでもいいんです。大いに活用しましょう!
万引きを手放すことができて、やっと回復へのスタートラインに立てたような気がしています。
過去を正直に話す覚悟
クレプトマニアの大きな問題として「バレなきゃいい」という発想に陥りがちということがあります。「見つからなければいい」、「バレなきゃ大丈夫」、「このくらいいいだろう」、そういう歪んだ認知を修正する必要があります。
『万引きがやめられない クレプトマニア(窃盗症)の理解と治療』には、治療の取り組みとして次のようなことが書かれています。
・万引きのことをすべて打ち明けることが回復の第一歩であり、絶対条件。
・これまで自分がやってきた盗みについて、100%告白することにまず取り組んでもらう。
・言いにくいことを隠したり、誤魔化せば、嘘・ごまかしを持ち続けるようになりそれでは行動は変わらない。嘘・ごまかしのない自分になるための努力が必要。
『万引きがやめられない クレプトマニア(窃盗症)の理解と治療』
これ、頭ではわかります。本当にそう、その通りです。ド正論すぎて、ぐうの音も出ない理論ですが簡単にできることではありません。だからこそ、この壁を乗り越える覚悟が必要になります。
正直に話すことが困難である理由に「万引きしてはいけない」という小学生でも守れるようなルールが守れないという恥ずかしさ・情けなさがあります。バレていない万引きは墓場まで持っていきたいという思いも、そう簡単には消えないはずです。でも簡単に越えられる壁ではないからこそ、越えたときに得られるものは本当に大きいものがある、そう感じています。
過去の膿を出す作業は本当に苦しいです。わたしは万引きをやめられなかったことを初めて正直に話したのは、入院中の当事者のみのミーティングでしたが、あの緊張感は忘れられません。終わった後は崩れ落ちるように泣き、仲間に支えてもらいました。そして、正直に話せた後のこころが楽になった感覚は「こんなにも違うのか!」と驚きでした。また、自分の万引きによる被害額を表に書き出しましたが、その量にも情けなさを感じました。過去と向き合うことは本当に苦しく、もう2度とやりたくない作業です。でも、その苦しさが「もう盗る生活に戻りたくない」という覚悟を強めることにつながっています。
万引きを手放すという最初の一歩を踏み出すのもそれなりに大変ですが、捕まったり、強制的に入院させたりして、そこまで覚悟を決めなくてもできてしまうこともあります。ですが、この「過去のことを正直に話す」というのはどんなに周囲が働きかけても、本人が覚悟を決めて行動に移さないどうしようもありません。どれだけのことを隠しているのか、それは本人にしかわからないからです。
そして、過去のこと・そしてこれからのことも「正直に話すこと」できるかどうか、「バレなきゃいい」という考えを捨てられるかどうかが、回復し続けられるかに大きく影響するのだと思います。もっと言えば、手放す覚悟ができてもその効果は一時的で、それだけでは再発のリスクが高い状態が続いてしまうのではないでしょうか。すでにバレている捕まった時のことだけ正直に話す、バレていないものは隠しておくというのでは不十分だと感じています。「盗っていた期間が長く、量が多すぎてすべては思い出せない」、そんな状態でもそれを正直に話すべきだと思います。すべての人に正直に話す必要があるとも思いません。でも、ため込んでいてはよくないです。話しやすい場面や相手を選んで、どこかで正直になることが必要だと思います。盗らない生活を続けるには、過去のことも含め「すべてを正直に話す覚悟」は不可欠と言えそうです。
回復への努力を継続する覚悟
この覚悟には、依存症であることを受け入れることが重要です。依存症に完治はなく、一生回復への努力を続ける必要があり、長期戦になります。その事実を受け入れ、長期戦を戦い抜くことの覚悟が必要です。依存症は「生き方の病」とも言います。生き方を変えていく、その努力を続けていく覚悟とも言えます。
盗らない生活を続ける覚悟というのは、「盗りたい気持ちをガマンし続ける」ということではありません。実際、盗りたい気持ちにかられることなく、買い物ができるようになっている仲間も多くいます。依存症も病気、他の病気を例に考えてみます。糖尿病、一度症状が強くなると薬を飲んだり、食事制限をしたり、運動をしたりして血糖値をコントロールする必要があります。血糖値が落ち着けば薬の量を減らしたり、食事制限を緩くしたりしますが、暴飲暴食はせず、適度に運動をするなど、症状が悪くならないように配慮した生活が必要になります。また、定期的に検査を受けるなどして血糖値の変化に気を配る必要があり、何も対策をしなくて良いという状態に戻ることは難しいです。
依存症も、そんな感じなのではないかと思います。回復に向けて治療や自助グループへの参加を最優先にすることが必要な時期、ある程度落ち着いてミーティング参加頻度を下げるなどサポートを受けながら社会復帰を進めていく時期、社会復帰を果たす時期、そのような段階があると思いますが、盗りたい気持ちが起こらなくなっても何も対策をしないことは再発のリスクが高くなります。自分がクレプトマニアであることを忘れない、ストレスを溜めない生活を心がける、自分と向き合う時間としてミーティングの参加を継続するなど、やはり回復への努力を継続する必要があります。逆に、長期間盗らない生活を送れていたのにスリップしてしまったという仲間の話を聞くと、このあたりの意識が薄くなっているパターンがとても多いです。
依存症状に影響を及ぼすこころの変化は分かりにくいです。そのためこころの変化に気を配り続けることはとても大切だと思います。依存行為のメカニズムを知り、こころの内圧をうまくコントロールする方法を身に着けられれば、行為衝動は軽減できるのだと感じています。こころの内圧をうまくコントロールする方法を身に着けることは、回復し続けるために重要な役割を果たすと言えるのではないでしょうか。
また、盗らない生活を維持するには、失敗を受け入れる覚悟・正直であり続ける覚悟が重要だと感じています。クレプトマニアにはいつでも「バレなきゃいい」という発想がつきまとってしまうからです。窃盗行為以外のことも含め、「失敗を隠さない」・「正直に話す」ということを意識的に行っていく必要があると思います。
うまくいかなくても諦めないということも必要な覚悟です。依存症である以上、スリップ(単発の失敗)のリスクはあります。スリップをしないに越したことはありませんが、やってしまったからといって回復を諦めることはもっとダメです。「バレなきゃいい」モードに入ってしまい、正直に話せなかったら、スリップに留めることができず、再発(万引きがやめられず生活に支障が出る状態)まっしぐらになってしまいます。
長期戦を戦い抜く覚悟とは「スリップしてしまっても、正直に話し、単発で終わらせる」、「慌てず・焦らず・諦めずに盗らない一日を積み重ねる」、「依存症であることを忘れずこころの声に耳を傾け続ける」、そういった覚悟だと思います。
すぐに結果が出るとは限りません。依存症になって即時的な効果がある依存行為を覚えてしまうと、「すぐにわかりやすい結果が出ないことを、こつこつじっくりと続ける」ことが苦手になってしまいがちです。ここは踏ん張りどころ、慌てず・焦らず・諦めず、じっくりと進んでいく必要があります。
先延ばしにしない、そして続ける
「まだ捕まっていないから」・「まだ不起訴だから」・「盗っている量が少ないから」・「依存期間が短いから」・「捕まって止まっているから」…、などなどいろいろと理由をつけて覚悟を決めることを先延ばししがちです。そうやって先延ばしにしていると、どんどん先延ばしを続けます。「まだ不起訴だから」、「まだ罰金だから」、「まだ裁判になってないから」…、そうやって先延ばしにしているうちに取り返しがつかない状態になるのです。どんな段階でも「まだ平気」なんてことはあり得ません。捕まらなくても、被害者は増える一方です。万引きをやめる覚悟が必要です。 また止まったからと言って、病気が治ったわけではありません。 回復への取り組みを継続する必要があります。依存症は進行性の難病ともいえると思います。回復への取り組みを先延ばしにすればするほどやめるのが困難になります。「捕まって止まったから、大丈夫」ではないのです。上記の3つの覚悟を決めることが必要なのではないかと思います。
1人での回復は困難
こうやって書き出してみると、長期戦を戦い抜くのに必要な覚悟は「1人で戦わない覚悟」・「自分の弱さを受け入れ、辛い時に助けを求める覚悟」ともいえるのではないかと思います。依存症の回復は自分との闘いですが、自分一人での闘いでは、まず勝ち目はありません。回復し続けるためには誰かに助けを求めやすい環境を作ること、そして助けを求められる自分になることが大切です。
また、長い戦いは先が見えず不安になります。そういう時に、先行く仲間(回復し続けている人)の存在はこころの支えになります。自助グループやSNSなどで仲間とつながることは、回復し続けることに大きな役割を果たすと思います。
わたしは今、オンライン自助グループ「Room K」を開催しています。LINEやzoomを利用して、多くの仲間とつながることができます。ぜひ参加してください!
覚悟を決めて万引きをやめたら、むしろ楽になった
盗らない生活になって分かったことは、「盗らない方が楽」ということです。万引きを手放すことが怖く、入院を先延ばしにしてまでも万引きする生活を続けたいと思っていましたが、今では「もっと早く入院していればよかった」と思うくらいです。「覚悟を決める」というと辛いことに耐え忍ぶというようなイメージになりがちですが、逆でした。覚悟を決めて盗らない生活を送れるようになった今は、盗ってた頃に比べて本当に楽です。
わたしの場合、盗れる環境では万引きをガマンすることができなかったので「万引きを手放す覚悟=入院する覚悟」という感じでしたが、入院する覚悟ができたのは仲間の話を聞いたことが大きく影響しています。参加していた自助グループで「入院して盗れない環境に行き盗らない生活を送ることで、盗らない生活の良さがやっとわかった」、「過去の万引きやこころの中のもやもやなどを正直に話し、澱のように溜まった汚れを全部吐き出したら、とてもすっきりしたし、盗りたい気持ちが起こらなくなった」、「盗らない生活は本当にこころが穏やかで気持ちがいい」、そういう話を聞き、その方法ならわたしもできるかもしれないと、具体的に手放すための行動のイメージが湧きました。わたしも続きたいと強く思いました。
そして、入院生活の中で正直に話すこと、盗らない生活を送ることの良さを痛感し、正直であり続ける覚悟・スリップしたらすぐに正直に話す覚悟を決めたら、「万引きに洗脳されてしまうレベルにまでは至らずに済むだろう」と思えるようになり、気が楽になりました。
だから、わたしも伝えます。
万引きを手放して、正直にこころのもやもやを外に出すことで、わたしは盗らない生活を送れるようになりました。そして、正直であり続ける覚悟を決めたことが、次の盗らない一日につながると信じています。まだまだ正直になることが下手で課題はたくさんありますが、少しずつ前に進めている気がします。そして、今の盗らない生活は、万引きをしていた頃よりもずっとこころが穏やかです。1人でも多くのクレプトマニアにこのことを伝え、回復に向けて一緒に頑張っていけたらと思っています。
関連する項目はこちらです。
ディスカッション
コメント一覧
そのようにご立派な覚悟を論じているなら、ご自身の食べ吐き依存の方もそのようにされているのでしょうね。
あなたは食べ吐きの為の食品窃盗のみだと公言なされていて、尚且つ回復したとおっしゃっているのですから。
その辺のこともお伺いしたいですね。
コメントありがとうございます。
わたしは「万引きはやめられている依存症者」であって、過食嘔吐はやめられていませんし、回復したなんてとてもとても言えません。
むしろ、ここにあげた3つの覚悟について、過食嘔吐についてはできていないからやめられていないんだなと痛感しています。