ちゃんとお金を使えるようになる
クレプトマニアにはお金を使うことに不安や恐怖を抱く人も多いです。この感情を軽減し、お金を適度に使うことが回復につながると感じています。
回復とはお金をきちんと使えるようになること
クレプトマニアの回復には、他の依存症以上にお金がかかるように感じられると思います。盗らない生活を送るためには、ものを買うためにお金を使えるようになることが必要になるからです。食料や消耗品、日用品など、自己使用目的のものを万引きしていた場合、万引きをやめれば買う必要が出てくるので、当然お金がかかります。それまでの犯罪を犯してお金を使わずに済んでいたことが異常だったわけで、必要なものを買ってお金が減るというごく当たり前のことが起こるだけですが、そこに強い抵抗感を覚えてしまうのがこの病気です。クレプトマニアは「盗ってしまう病気」ですが、「出費恐怖症」でその結果万引きするというイメージ、「買えない病気」という表現の方がしっくりくる人もいるのではないでしょうか?
でも、この抵抗感・恐怖心は越えなくてはいけない壁だと思います。必要なお金を必要な場面で適切に使えるようになることが求められます。盗らない生活を送るというのは「きちんとお金を使って買うことができるようになる」ことだと思います。
万引きを繰り返していた仲間が買い物をするときに、「クレプトマニアの治療費だと思ってお金を払っている」という話を聞いたことがあります。なるほどなと思いました。そのくらい、クレプトマニアにとってお金をきちんと払えるようになるというのは回復に大切なことです。
枯渇恐怖と向き合う
クレプトマニアには強い枯渇恐怖を持つ人が多くいます。「お金が減るのが怖い」という感覚で、それはお金があるなし(量)に関係なく、減ってしまうことに強い恐怖心を抱くというものです。行為時のスリルや成功時の達成感・満足感のため窃盗行為に依存する部分もありますが、多かれ少なかれお金に対して異常な執着心を持っている人が大半だと思います。わたし自身、盗らない生活を送れるようになった今でも「節約依存」だと感じています。特に食費に対してその傾向が強いです。節約して、お金をなるべく減らさないことに満足感・達成感を得ているのです。万引きをするようになる前から、節約をするために店をはしごしたり、広告の品を狙って買い物に行ったりしていました。そこから割引シールの貼り替え・セルフレジでの悪さなど、犯罪行為であるズルに手を染め始め、最終的に究極の節約方法である万引きという犯罪行為に依存してしまったという感じです。今でも食べ物に対して「なるべくお金を使いたくない、お金を減らしたくない」という思いは強く、買い物に時間をかけてしまうこともあります。「買うことをガマンしたり、安いものを買って出費を減らすのが節約。買わずに盗ってお金を使わないのは犯罪、しかも被害者がいる。絶対やらない」、そう思うことができているので盗りたいという気持ちはありません。しかし、お金を使うことへの抵抗感は、盗っていた頃と比べると随分と減ってはいるもの今でもあります。
クレプトマニアでも「窃盗は犯罪行為」ということは認識しています。しかし、それ以上にお金を減らしたくないという思いが勝ってしまって盗ってしまう、そんな人も多いと思います。なぜお金に執着してしまうのか、その問題と向き合うことが必要になってくると思います。
盗るくらいならお金を借りる
お金がなくて生活に困窮しているのであれば、盗る前に助けを求めるべきです。お金を借りることは犯罪ではなく、本来はそちらを選択しなくてはいけないと思います。ところが「お金がないということが恥ずかしい」、「家族には過食嘔吐を否定されているのに、過食用のお金が足りないなんて言えない」など助けを求めるのが怖く躊躇ってしまい、一人で解決する方法として窃盗をしてしまうという話はよく聞きます。始めは家族の財布からお金を盗るなどの家庭内窃盗から始まり、それがバレてしまって万引きをするようになるという話もあります。
助けを求めるというのは本当に苦しいことです。クレプトマニアについて書かれた本には「枯渇恐怖」になると「自分が所有する物品や資金が減る」ということに加え、「周りから自分への評価が下がる(減る)」ことに対しても恐怖を抱くようになると書かれています。評価が下がる・自分の価値が減ることが不安で助けを求めることが怖くなってしまう状態です。でもやはり、窃盗行為に走る前にお金を借りるという、自分が痛手を負う方法を選択しなくてはいけません。家族に助けを求めることが出来なければ、行政の相談窓口でもいいと思います。お金を使うためにお金を借りましょう。
また、直接的に金銭的な解決に結びつかなくても、盗りたくなる状況に追い込まれた時にその気持ちを外に出すだけでも違ってくることもあります。一人で抱えていてもつらくなるだけです。誰かに聞いてもらう、それだけで変わることもあります。依存行為としての窃盗欲求は窃盗を行っても治まるものではありません。治まったとしてもそれは一時的で、むしろ依存行為を繰り返せば欲求はどんどん強くなります。とにかく助けを求めてください!
お金を使うことは悪いことではない その値段には意味がある
わたしの中には「お金はなるべく使わないほうが良い」という認識が根強く存在しています。簡単に言えば、ケチです。その認識があったからこそ、究極の節約方法である万引きに依存しました。今は万引きはしていませんが、なるべく節約したいという思いは強く行動に表れています。お店をはしごして少しでも安いものを探したり、割引品を狙って購入したりしてしまいます。結果的に安く買えていることも多いです。単純にお金のことを考えれば、得したように感じます。
でもお金を払うことで得られるものは、何も商品そのものだけではありません。目の前にある商品だけがお金を払って得られるものではありません。値段にはその理由があります。例えばペットボトルの飲み物、自動販売機で買うよりもスーパーで買う方が安いことが多くあります。でも、スーパーで買うためには商品を取りに行ったりレジでお金を払ったりと、何かと時間がかかります。これが自動販売機であれば、さっと買ってすぐに飲むことができます。そのおかげで電車に間に合ったとなればその時間をお金で買ったと言えるでしょう。この便利さにお金を払ったとも言えます。サービスにも対価を払っているので、丁寧な接客をするなどサービスが丁寧なお店では同じ商品でも価格が上乗せされています。そして、お金を使って得たサービスや時間などで、こころの余裕などを商品以外のものを得ることもできます。
高い商品を買ったからと言って損しているわけではないのだと思います。そこにはサービスだったり、時間だったり、手間だったり付加価値があり、そこにお金を払っているわけです。逆にお金を節約したければ自分で手間や時間をかける必要があるのだと思います。安いだけが得ではない、このことは以前より認識できるようになりました。
今はお金を使うことについて、「節約ではなく、有効活用」を意識するようにしています。とにかく安けりゃいいということではなく、時間やサービス・質なども含めて、有益にお金を使うことが大事なのではないかと思います。そうやって納得しながらお金を使えば、高い金額を払っても損した気分は起こりにくいと感じています。そして、お金を使うではなく、「経済を回す!」ということばに言い換えてお金を使うことは悪いことではないと言い聞かせたりもしています。
回復への取り組みにお金を使う
依存症の回復のためには何かとお金がかかると思います。医療機関に通うためには治療費や交通費がかかります。また自助グループへ参加するとなれば交通費もかかるでしょう。また、回復の取り組みに時間を割くために仕事量を減らす必要が出てくることもあり、収入が減ってしまうことも考えられます。このような回復への取り組みのためにお金をかけることは必要経費であり、そこをケチってはダメだと思います。ところが、この部分をケチってしまう人が多いように感じます。
依存症の回復はすぐに効果を感じられるとも限らず、結果につながらない時期もあります。お金と時間をかけることに疑問を抱いてしまうこともあるかもしれませんが、そこに粘り強くお金と時間をかけて取り組み続けることができるか、それがとても大切だと思います。「結果につながるかどうかわからない」、「すぐに効果が出るわけではない」、このようなことにお金を払うのが苦手な人が多いのも事実です。目の前にあるものを、タダで手に入れる万引きというすぐにわかりやすい達成感が得られる行為と真逆ですから。ついつい「費用対効果」を考えてしまうのです。これはモノを買う場合にも当てはまります。「どんなものかわからない、初めて使うもの」など費用対効果が確約されていないモノにお金を払うことを躊躇ってしまいがちです。しかし、これらは苦手だからといって逃げてはいけない問題だと感じています。
お金をかけることには、本気度が高まるというメリットもあります。依存症からの回復にお金をかけずに窃盗を繰り返していれば、「お金では買えないもの」まで失うことになりかねません。
事件を起こし、弁護士費用や医師による意見書作成費用など、事件対応にはお金をかけるのに、回復への取り組みにはお金をケチる人が多いと感じてしまうこともあります。事件対応も必要経費ですが、それ以上に回復への取り組みにお金をかけるべきだと思います。再犯しないことがとても重要であり、事件が終わりではありません。むしろ回復に向けてのリスタートともいえるくらいです。長い目で見て得をする、損をしないために回復への取り組みにきちんとお金をかけることはとても大切であり、きちんとお金を使うことの練習になると思います。
このように書くと、「わたしが住んでいる地域にはクレプトマニアの病院や自助グループがなく、お金をかけようにもかけられない」と思う人もいると思います。回復のためにお金を使うというのは、何も医療機関や自助グループ参加などのわかりやすいことだけではありません。回復のための知識を得るための本の購入やオンラインイベントの参加などもその一つです。「知識は身を助ける」というのは依存症からの回復にも言えることです。クレプトマニアに限らず、依存症全般の知識をつけるために積極的にお金を使うことをお勧めします。
クレプトマニアについて、わかりやすくお勧めなのはこの本です。
依存症全般の基礎知識についてのおすすめはこちら。回復への取り組みのイメージも掴みやすいと思います。
こちらは依存行為に走らないためにも、普段のメンタルケアが上手くなるための本です。
今はいろんな情報をインターネットで調べることができます。しかし、その情報には十分に注意が必要です。ネットで情報提供をしているわたしが言うのも難ですが、インターネット上の情報は広告目的であったり、情報が古いなどその信憑性は疑わしいものも多いです。お金がかからない情報収集方法ではありますが、そればかりに頼ることはお勧めできません。本を買って情報収集すると、本気度も高まります。積極的な活用をお勧めします。
自分のためにお金を使う
依存症からの回復にお金を使うとは、治療や自助グループの参加や情報収集のための書籍購入など依存症関連のことにお金を使うことだけではありません。回復に向けては依存先を分散させ、ストレスを減らすいろんな方法を身に着けることが大切です。分散先の一つに趣味を持つことが挙げられます。資格取得に向けて勉強やセミナー参加など自分磨きにお金を使うということも、回復にお金を使うことの一つだと思います。
仲間との話の中でどんなものを盗りたくなるかというと、食べ物や日用品でも生活必需品というよりも、ちょっとした良いものを見ると盗りたくなるという話はよく聞きます。買うのには躊躇うようなちょっと良いもの、ちょっと背伸びすれば買えないことはない程度のものです。ちょっといいお肉、ちょっと高級な化粧品、ちょっとランクアップしたものです。自分に対して「ちょっとした贅沢をする」ことを許してあげられない、そこにお金を使えない、でも欲しい、だから盗りたくなってしまう、そんな思考回路なのだと思います。第一段階としては「だからと言って盗ってはダメ、欲しくても我慢、諦めよう」、これができるようになる必要があります。そしてその先の「盗ってはダメ。でも欲しいから、ちょっと贅沢して買っちゃおう」というところにまで行ければ、かなりの進歩と言えると思います。
また日々のメンタルケア・ボディケアなど、セルフケアにお金を使うのもとても大切なことだと思います。というのも、依存症になると依存行為をセルフケア(ストレスの発散方法)の一つの方法として利用してしまっているので、それを手放すためには他のセルフケア方法を身に着けることが大切になるからです。マッサージに行ったり、ゆったりカフェにいったり、美味しいものを食べたり、映画を見たり、好きな洋服や雑貨を買ったり。わたしは正直このあたりが上手くありません。全般的にケチですが、サービスや娯楽など、自分へのご褒美的にお金を使うことが「もったいない」と感じてしまうことが多く、ためらいがちです。
この「自分のためにお金を使うのが苦手」というのは、セルフエスティーム(自尊感情、自分自身を大切に思う感情)が低いことが影響しているではないかとも思います。「自分を大切にできない、自分のことにお金をかける価値があると思えない」という感情があり、ついついケチになってしまいます。
わたしはまだまだ手に入れることを諦めることが多いです。この辺りは今後の課題だと感じています。
発達特性や生育環境の影響
クレプトマニアの中には「金銭感覚が乏しく、計画的にお金を使えない」ために、お金が無くなりその解決策として窃盗を繰り返してしまうという人もいます。「発達特性の問題があり、手元にお金がある衝動的に一気に使ってしまう」、「貧困家庭に育ち、お金はあるときに使い切ってしまわないとダメと考えている」など、計画的にお金を使うということが苦手なこともあります。このような場合、その問題がギャンブル依存や買い物依存など一気にお金を使った後の借金で問題が表面化することもあります。これとは逆に「お金が入ったら、なるべく貯め込んでおく。なるべく使わないために窃盗をする」という方向に考えてしまうこともあります。いずれも「限られた範囲のお金でやりくりをするといった経験に乏しく、ちゃんとお金を使うことが難しい」というのが根本の原因です。そのため「クレプトマニアの問題は落ち着いたが、買い物依存やギャンブル依存になり借金の問題を抱えた」などということもあります。計画的にお金を使うことができずにお金が無くなった状況の対応手段が窃盗か借金か、その違いです。問題解決には正しいお金の使い方を身に着けることが必要になります。
また、虐待などを受けていると「今が楽しければいい、最悪、死ねばいい」などと先を見通すことが苦手で、先を見通した行動をすることが難しくなることもあります。また虐待を受ける中で、十分にものが与えられず、窃盗で解決することが身についてしまっていることもあります。そのような場合は、まずは本人が虐待といった過酷な経験から回復する必要があり、自身が抱える行動の問題に向き合うのはその次ということになっていきます。
お金をかけたからと言って回復するわけではない
回復のためには、お金を使う必要があり、お金を使えるようになる必要があります。かといって、お金をかけたからと言って回復できるわけではありません。ここは勘違いしてはいけません。「入院費用が気になるのですが、入院すれば回復できますか?」と質問されることもありますが、それには「わかりません」とお答えします。回復しやすい環境を整えるためにお金をかけることは必要ですが、回復できるかどうかは本人次第です。いくらお金をかけても本人の努力なしには回復はあり得ないと思います。
依存症に完治はなく、長期的に回復の取り組みを続ける必要があります。これをやれば治るというような簡単なものではありません。「本人の努力なしに、短期間で改善する」というような効果を謳い、高額な治療法・カウンセリングなどを紹介しているものも散見されますが、その効果には疑問があります。そのような画期的な治療法が新たに開発されたというのならば、新しい治療法であるがゆえに長期的な効果は検証されていないでしょう。長期的な効果が求められる依存症治療に対し、それが検証されていない方法に多額の費用を支払うのはハイリスクと言えると思います。まずは医療保険が使える一般病院を受診することをお勧めします。
どこにお金をかけるか?何が一番有効活用になるのか?
事件対策にお金をかけることも回復するための環境の維持につながるとも言えますが、そこにお金をかけるのであれば、その後の回復のための取り組みにもお金をかけるべきだと思います。そして何よりも、罰金や裁判に対する弁護士費用など事件対策にお金が必要になる前に、回復への取り組みにお金をかけるべきです。
わたしの場合、お金を減らしたくないという思いから万引きをしていましたが、結果的には仕事を辞めて入院し、その後もしばらくは仕事をしませんでした。クレプトマニアになったことで、収入は明らかに減りました。でも、罰金刑になる前に入院して万引きを手放すことができたので、裁判費用は掛かっていません。事件対応の費用よりは入院費用の方が安く済んでいると思います。万引きしたものに関しては被害弁済をしたので得していることもありません。また、またお金で買えないような多くの「プライスレスなもの」を失ったとも思います。そう考えると、結局のところ早い段階で回復のためにお金をかけ、万引きをやめてちゃんと買うことが、一番お得で一番の有効活用になるのだと思います。
根っこの問題と向き合う
「モノを買ったり、サービスを受けるのにはお金を払う必要がある」、それを頭で理解したからと言ってもお金を使うことに対する不安や恐怖心がなくなるわけではありません。万引きが止まっていたとしてもある意味力づくで抑え込んでいる状態とも言えます。クレプトマニアが持つことの多い、枯渇恐怖・損得勘定・承認欲求・自己憐憫などの感情は「満たされない感覚」が大きく影響しています。この満たされない感覚が根本的な原因となっていることがほとんどなのだと思います。これを減らすためにも、自分自身と向き合うことが必要になります。万引きが止まったたらそれで安心というものではありません。むしろ、止まっているタイミングでこの根っこの問題と向き合うことが必要だと思います。
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