盗りたくても盗らなければいい

万引きを手放すために

盗りたい気持ち(窃盗衝動)はすぐには消えないことも多いですが、盗らなければよい、衝動を行動につなげなければよいと思います。

盗りたい気持ちはすぐには消えない

盗らない生活を送り始めた直後の方とやり取りをすることがあるのですが、「盗りたい気持ちが消えないことが不安」、「盗りたい気持ちがあることに罪悪感や情けなさを感じる」といったことを聞くことは多くあります。そして、「このような気持ちは今後どうなるのでしょうか?」と質問されることもよくあります。

クレプトマニアが万引きをやめようと思うきっかけの一つに、お店で捕まったり警察に逮捕されるなどして「窃盗行為がバレる」ことがあります。そのことで「やめなきゃまずい、やめよう」と思うのです。しかし、「やめよう」と思ったからと言って窃盗衝動(盗りたい気持ち)がなくなるとは限りません。むしろ、なくならないことの方が多いと思います。また、捕まった恐怖や罪悪感などから一時的に衝動が治まっても時間経過とともに再び衝動が襲ってくることもあります。万引きは成功率が高く、その成功体験は簡単に消えるものではありません。残念ながら「今なら盗れるのに」、「盗ればお金使わなくて済むのに」、「盗りたいな」というような窃盗衝動はそんな簡単にはなくならない、それが依存症の現実なのだと思います。

盗りたい気持ちと行動は別物 「盗りたくても盗らなければいい」

結論から言えば、「盗りたくても盗らなければいい」ということです。頭の中で何を思おうが自由です、それを行動につなげなければいいんです。例えば、ダイエットをしようとして「今日から食後のデザートはガマンしよう!」と宣言したとします。宣言したところで急にデザートを食べたい気持ちが起こらなくなるわけではないですよね。「冷蔵庫にプリンがあったよな…」とか、「食後のアイスが食べたい…」となるのはごくごく普通のことです。そう思ってしまうことは全然悪いことではなっく、結果的にガマンできたならそれでいいんです。むしろ、食べたいと思ってもガマンできた、その結果をほめてあげるべきなのではないかと思います。そして、ガマンすることになれてきたり、ダイエット効果が表れてきたりすることで、そこまで我慢しなくても平気になったり、そもそも食べたいという気持ちが湧かなくなったりと、食後のデザートは食べないことを普通にすることもできます。他の例としては禁煙もわかりやすいと思います。

窃盗についても同じことが言えるのではないでしょうか?やめると決意したからと言って、すぐに欲求が治まるわけではありません。かといって、ずっとガマンし続けなくてはいけないわけでもありません。盗りたい気持ちをガマンし、盗らない生活を続けるうち、盗らない生活の良さを感じることができると思います。また、盗ってきたことを正直に話したり、自分の心の問題と向き合うことで衝動が起こりにくい状態を作ることもできるはずです。その結果、盗りたい気持ちが徐々に少なくなり、盗らない生活が送りやすくなっていくという流れです。依存症のメカニズムを知り、負の感情をため込まないようにするなど、こころの問題と向き合うことで窃盗衝動が起こらない状態を作っていくことができるのだと思います。わたしの場合、今は盗りたい気持ちは起こっていません。

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「盗りたい気持ち」に気づけていることも○

「クレプトマニアは息を吸うように万引きする」というような表現を聞くことがあります。特に何も考えずに当たり前のように万引きをする状態で、盗りたい気持ちがあることすらも感じていない状況です。こうなってしまう人も多いと思います。「盗りたい」・「買うのがもったいない」などと感じることもなく、ごくごく当たり前のように万引きをしてしまう、こうなってしまうと行動をコントロールすることは難しくなります。そういう意味では「盗りたい気持ち」があると気づけるようになるのは大きな進歩と言えます。「盗りたい気持ち」があることをネガティブにとらえるのではなく、それを行動につなげないためにはどうすればよいかを考えて行ければよいのだと思います。

勝たなくてもいい、負けなければいい

依存症者は自己卑下や白黒思考が強く、完璧主義な人が多いです。盗らないだけでなく、欲求も起こらないという完璧を求め、それができないとだめとなってしまいがちです。勝ち負けで言えば完勝を求め、それが出来なければ負け、そう思ってしまうような考え方です。盗りたい気持ちが湧いてこなくなれば、「勝った」感覚になれるかもしれません。また盗りたい気持ちを強引に抑え込めれば、「勝った」と思えるのかもしれません。しかし、勝とうとすると力んでしまいがちで、長続きさせるのが難しくなります。盗りたい気持ちが湧いたら、無理に抑え込もうとするのではなく、他のものに注意を向け、嵐が過ぎ去るのを待つといった具合に、「負けなければいい」くらいの気持ちの方がうまくいくように感じます。

先日、ダイエット指導をするパーソナルトレーナーの方が「ダイエットを成功させるコツは70点を取り続けられるようにすること」と言っていました。ダイエットにはある程度の食事のコントロールが必要となりますが、これがうまくいかない最大の原因はストレスということが多いそう。「100点を目指して頑張るとむしろストレスとなってしまい、余計に食べてしまう」ということが往々にして起こるそうです。「100点を狙って、結果的に50点になってしまう」、そんな感じです。「70点でもOK!」と思えるくらいの気持ちの余裕を持てると、結果的にうまくいくと言っていました。これも負けなければいいというのと同じような考え方です。衝動が起こらなければ100点ですが、「盗りたくなっても仕方ない、盗らなければOK」くらいの気持ちで行く方が、ストレスが少なくうまくいくと思います。

盗りたい気持ちをため込まない

盗りたい気持ちを自分の中に留めておくと、その気持ちは膨らむことが多いです。そして、本当は盗りたい気持ちがあるのに周囲の目を気にして「盗りたくない」などと自分の気持ちを誤魔化すことは、現実から目を背けることとなりストレスをため込むことにつながりやすくなります。そんな時には本音をため込まずに外に出して発散することがとても効果的です。しかし、「盗りたくなっている」などということを家族や友人など身近な人に話すことができればよいのですが、それはかなりハードルが高いと思います。SNSや自助グループなどの活用がおススメです。今はオンラインでもつながることができます。また、それが難しければ紙に書き出すだけでも気持ちが落ち着くこともあります。とにかくため込まないことを意識しましょう。

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盗らなかった自分をほめる!

万引きをやめようと思っても、窃盗衝動は簡単には消えないことも多いです。そうなると「やってはいけないことなのに、なんで盗りたいと思ってしまうんだろう…。」と窃盗衝動があることに罪悪感を持ってしまうこともあります。でも、考えてみれば「ガマンできている」というのはほめるに値することです。依存症患者にとって、衝動をガマンして行動につなげないというのはとても大変なことだからです。むしろ「窃盗衝動がある」ことで自分を責めてしまうのは逆効果です。それがストレスになり、窃盗衝動を強めてしまうという悪循環にはまってしまう可能性もあります。

10年来盗らない生活を送っている先行く仲間は今でも盗りたい気持ちが湧くことがあるといいます。それでもその人は「あー盗りたい気持ちがあるなー」と思いながら買い物しているそうです。下手に抑え込まない、誤魔化さずに受け入れて行動と切り離す、そういうことができているのだと思います。「窃盗衝動を持ってしまう自分を受け入れること、そして行動に移さなかった自分をほめること」、これは先行く仲間から聞いた衝動とうまく付き合っていくポイントです。

わたしは盗りたい欲求があった頃は、まったくと言っていいほどガマンすることができませんでした。クレプトマニアと言えども警察に捕まると一時的にでもガマンできる人も多いのですが、わたしは1日もガマンできませんでした。お店で捕まって、交番に行きその場で返されたということもあったのですが、その時はその帰り道で万引きしてしまうような状態でした。だから、ガマンすることがどれだけ大変なことか、よくわかります。

「お店に行っていないんだから、盗らないのは当たり前」、そんな話題になることがあるのですが、お店に行かないという回避行動をとれたという意味で、それは盗らないための努力の結果であり十分にほめるに値することだと思います。わたしが万引きがやめられなかった頃は、仕事の後まっすぐに家に帰るということができませんでした。帰りの電車の中で「万引きしないためにお店に行くのはやめよう!」と思っていても、改札を出るとどうしてもお店に寄ってしまう、そんな状態でした。お店に行くことすらガマンできませんでした。

盗りたくなる場面を回避するということも含めて窃盗衝動に打ち勝ってガマンできるというのは本当にすごいことです。盗りたいと思っても結果的に盗ってない、そんな自分をほめてあげてください。

盗りたい気持ちを分析してみる

盗りたい気持ちになってしまったのなら、むしろそれを利用して次につなげてられるとよいと思います。どういう時に盗りたくなるのか、そのときのこころの状況や場面を把握すれば盗らないための対策を立てやすくなります。

買う生活を続けることで身の丈に合った生活に

わたしは入院生活を経て盗らない生活が送れるようになり、今は盗りたいという気持ちも湧いていません。盗らない生活を送れるようになった当初はお店にいる時など、「前だったら、こういう場面で盗ってたな」とは思うこともありました。そのような場面では「盗っていたことが間違い、ちゃんと買わなきゃ」と気を引き締めています。今思うと盗っていた頃は、買わずに盗ることが前提だったので目をつけるものが違うというか、欲しいものの基準が違っていました。金額的に買えるかどうかではなく、盗れるかどうかで判断してしまっていました。結果的に高価のものに手が伸びることも多くありました。お金を払って買うとしたら、諦めるようなものです。

わたしは自分が食べるものを万引きしていましたが、ちゃんと買う生活になると盗っていた頃には当たり前のように手にしていた高価な食材には手が伸びなくなりました。かといって、不満があるわけではありません。高い食材も美味しいですが、安い食材でもそれなりに美味しいです。そしてなにより、買ったもので作った料理を食べる時には後ろめたさはありません。ちゃんと買う生活を続けていくことで、身の丈に合った生活になり、それなりに満足できるようになる、そう感じています。

盗らない生活を送れるようになり2年以上経過し、今はお店に行っても「こういう場面で盗っていた」・「ここなら盗れちゃうな」などと考えることがぐっと少なくなりました。防犯カメラが気になるということもありません。以前は万引きGメンの存在を気にしていたので、気が付くことも多かったのですがそれも減りました。ちゃんと買うようになった今でも節約大好きなので、気になるのはお得かどうかです。選ぶお店は「盗りやすいお店」ではなく「お得なお店」、店内で気になるのは「防犯カメラ・万引きGメン」よりも「どれがお得な商品か?」・「今日の特売は何?」という、買うことを前提とした行動になりました。これなら店内で怯えることもないので、穏やかな気持ちで買い物することができるようになっていると思います。

盗りたい気持ちがないからと言って油断は禁物

今は窃盗衝動が起こることはありませんが、今後再び窃盗衝動が起こることは十分に考えられます。それが依存症であり、油断は禁物です。わたしは窃盗衝動をガマンできたことがほとんどないので、「衝動が湧いてきたら、どう対処していいかわからない」という不安はあります。だからこそ、お店に入る前に「盗りたい気持ちが湧いていないか?」ということをいつも確認しています。これは気持ちを確認していると同時に、「盗りたい気持ちを起こさないぞ!起きても負けないぞ!」と気を引き締めている部分もあります。

だからといって、すごく窮屈な生活をしているかと言ったらそんなことはありません。万引きがやめられなかった頃よりもずっと気楽です。盗りたい気持ちがないことを確認したあとは、買い物を楽しめています。ガチガチに緊張しているという感じでもありません。盗らない一日を積み重ねることで、窃盗衝動から解放された生活を送れるようになったと感じる日々です。

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