承認欲求・枯渇恐怖・損得勘定・自己憐憫

クレプトマニアとは?

この4つの4文字熟語、クレプトマニアの特性として当てはまることが多いです。入院中も仲間と話をしていて、これらの感覚が似ていると共感することが多くありました。

承認欲求とは?

承認欲求とはアメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが1943年に提唱した「欲求5段階説」の階層の一つです。

承認欲求(自己承認の欲求)とは、「他の人から認められたい・尊敬されたい」という欲求で、「自尊心の欲求」・「自我の欲求」とも呼ばれます。人は他の人とつながると、その中で「自分の存在を個人として認めてほしい」、「優秀だと認めてもらいたい」という欲求が生まれます。承認欲求が満たされると自分の存在価値に自信を持つことができますが、逆に満たされないと劣等感や無力感に襲われる可能性があります。

クレプトマニアはこの承認欲求が強い人が多いです。承認欲求が強いというのは、裏返せば承認欲求が満たされていないということであり、それにストレスを感じていると考えられます。 承認欲求を満たすために、万引きしたものを他人にプレゼントするという人も多くいます。プレゼントすることで承認欲求が満たされるため、その快感が忘れられずに万引きを繰り返してしまうという悪循環にはまりやすいパターンです。

「自己顕示欲が強い」というのも、自分の存在を認めてほしいという承認欲求が強いことの表れといえるでしょう。

枯渇恐怖とは?

「枯渇恐怖」とは、お金や生活用品など物質的なものや自分自身の人間的な価値や評価などがなくなったり減ったりすることに異常なほどに恐怖を覚える状態をいいます。今あるものが減ってしまうことに恐怖を覚えます。どんなにたくさんあっても、「減る」ということが怖くなります。10個あったら9個に減ることが怖く、100個あったら99個になってしまうことが怖いのです。少しでも減ると、このまま減り続けて全部がなくなって枯渇してしまうのではないかという強烈な不安に襲われます。

また人間的な価値や評価についてもあてはまるので、「他者からの承認(評価)が減ってしまうのが怖い」という状況になり、「休むことが不安」・「他人からの依頼を断るのが苦手」・「助けを求めたり、相談をしたり弱い面をみせることができない」という状況を招くこともあります。

枯渇恐怖は摂食障害とクレプトマニアを併発している場合に多く見られますが、それには「生理的飢餓感」が影響していると考えられています。また、周囲からの愛情不足や他人からの評価が低いと感じた結果、「満たされない感覚」を持つことで「精神的飢餓感」が生まれ、枯渇恐怖につながることもあります。

枯渇恐怖によって引き起こされることの一つが「ため込み」です。ものがなくなってしまうことが怖いため、その不安を抑えるためにものをため込むようになります。生活消耗品や食品などのストックがないと不安になり、ストックのストックを用意し、さらにストックのストックのストックを用意したくなるといった具合にエスカレートしていきます。

溜め込みについてはこちらの項目でもご紹介しています。

また、お金についても減ることが怖いため、「レジでお金を支払う」という行為に強い不安を覚えることもあります。財布からお金が減っていくことに恐怖を覚えるのです。この、お金が減ることへの異常なほどの恐怖心から万引きに走ってしまうことがあります。そのため、クレプトマニアは「万引きをしてしまう病気」というよりも「ちゃんと買えない病気」という表現の方がしっくりくるのではないかと思うこともあります。

関連する項目はこちらです。

損得勘定とは?

損得勘定とは「自分にとって損であるか得であるかを天秤にかけて、打算的に判断すること」を意味することばです。「利害を指標にして損だと思えば行動しない」、というネガティブなニュアンスを含み、あまり良い意味では使用されません。程度の差はあるものの、多くの人がこの損得勘定を持っていると思います。「損をしないように行動したい」と思うのは、ごく自然なことですが、クレプトマニアにはこの損得勘定が強い人が多いです。

損得勘定に使用されている「勘定」とは「事前に見積もる」という意味があります。そのため行動の判断に「損得」について事前に見積もる、利害を計算するという意味になります。「これを買ったら損しそうだからやめよう」、「こっちの方が得をしそうだ」、「これにお金をかけても効果がなさそうだからやめよう」など費用対効果を重視してしまうなど、損するか得をするかを予想して行動を決めてしまう、そんな考え方です。

正しい意味は上記ですが、 次の行動について損得勘定を働かせることにつながるため 「あっちのお店の方が安かった、損した気分」などと行動した後も損得についてあれこれと考えてしまうのも、損得勘定が強い人の特徴と言えます。

クレプトマニアで損得勘定が問題になるのは、損したと感じるとその分を盗って得をすることで穴埋めしようと考えてしまうことです。 また、損した気分を晴らすべく、「盗って取り返そう」という思いにつながり窃盗行為に及んでしまうこともあります。

・違うお店で買ったものが、このお店では安く売っていて損した気分、その分盗って得をしてもいいだろう。
・スマホが壊れて、多額の修理代がかかって損した気分。万引きして取り返そう。
・仕事で私のせいではないのに怒られたのは損した気分。取り返すために万引きしよう。
・自分の持ち物が誰かに盗られてしまった。損してる、盗って挽回したい!盗ってしまえ!


このような考え方が、クレプトマニアにありがちな損得勘定です。

目先の損得勘定は損をすると言われ、損得勘定をする人は長い目で見ると損しがちです。損得勘定を強く持つクレプトマニアは、目の前の得に目が行ってしまい、万引きを繰り返してしまいます。万引きを続けていれば、いずれ捕まるという大きな損が目に入らなくなってしまうのです。

自己憐憫(じこれんびん)とは?

自己憐憫とは、自分のことをかわいそうだと思うことです。自己憐憫が強い人は「自分は他人よりかわいそうだ」、「私ほど不幸な人はいない」などと考えてしまいます。そんな自分を憐れむことで、周りからの注目を集め、特別扱いしてほしいという感情を抱いていると考えられています。また、自己憐憫の感情が強い人は物事を悲観的に見る傾向があります。例えば、10個の出来事のうち、良かったことが6個あったとしても、残りの4個が悪いことであればそちらにばかり目が向いてしまい、悪いことが全てのように感じてしまうのです。

クレプトマニにとって問題となるのはこの自己憐憫が窃盗を肯定する言い訳につながってしまうことです。「わたしは辛い状況をガマンし続けた不幸な人間だから、万引きしてもいいだろう」、「こんなに頑張っても報われないわたしはかわいそう、だから盗っても許されるだろう」、こんな言い訳(認知の歪み)で窃盗を繰り返してしまうことがあります。

共通するのが「満たされない感覚」

承認欲求・枯渇恐怖・損得勘定・自己憐憫、これらに共通するのが「満たされない感覚」です。

「心が満たされていないから、承認を欲する」、「心が満たされていないから、何かが減ることに強い恐怖を感じる」、「心が満たされていないから、ちょっとした損でも得をして取り返そうという心理が強く働く」、「自分は他人よりかわいそうだから、悪いことをしてもよいと思ってしまう」そのようなことが起こります。このように心理的・感情的な満たされない感覚を、物質的なもので穴埋めしようと窃盗欲求が起こってしまうと考えられます。

この「満たされない感覚」というのは、漠然としたものであり、その感覚に本人が気づいていないことも多くあります。まずは満たされない感覚があるということに気が付き、それを認めることが回復への大きな一歩になると思います。また、「満たされない感覚」があると気が付いても、すぐに消失させるのは難しいです。満たされない感覚を埋めるのにはその原因を探ることが大切だと思います。多くの場合、それには過去の体験が影響しています。過去を振り返り満たされない感覚が何によって引き起こされているのかを探ることは、回復し続けるためのヒントになる可能性が高いです。

うまく対処する方法を考える

承認欲求・枯渇恐怖・損得勘定・自己憐憫、これらは程度の差こそあれ、誰にでもあるもので、減らすことはできてもなくすことを目指すのは無理があります。そのため、これらをなくすことを考えるより、上手く対処したり、特性として活用することを考えた方が現実的です。まずは溜め込まずに言葉や文字にして外に出すことをお勧めします。

これらの感情が強くなった時には窃盗衝動が強くなりやすいということを知っておくだけでも、対処しやすくなるのではないでしょうか?

関連する項目はこちらです。